盛岡タイムス Web News 2015年  9月 16日 (水)

       

■  〈花林舎流庭造り―よもやま話〉41 野田坂伸也 庭と香り植物

 

     
   ザ・マッカートニーローズというバラ。強い香りがある上に、とても丈夫で育てやすい  
   ザ・マッカートニーローズというバラ。強い香りがある上に、とても丈夫で育てやすい
 

  1カ月ほど前、誠文堂新光社という出版社から「香り植物の緑化デザイン」という本が送られてきました。その出版社に知人がいるわけでもないのでどうして私に送ってきたのかと不思議に思いましたが、企画・監修者が以前からの知人でしたので、その人が送るように手配してくれたのだと分かりました。

  私は実のところ庭の計画に際して植物の香りについてはあまり配慮したことがありませんでしたから、この書名を見て内心少し動揺したのです。これまで私に庭造りを依頼された方々がこの本を読んで「野田坂さんは私の庭を造るとき香りのことはちっとも考えてくれなかったようだわ」と気付くかもしれません。そんな時のためにも、早くこの本を読んで対策を準備しておかなければなりませんでしたが、何しろ猛暑の中で働く日々が続いたものですから若い私でもさすがにだいぶへばってしまい、勉強のための本を読む元気がありませんでした。8月下旬からようやく涼しくなり読む元気を取り戻したところです。

  日本の造園界では、これまで全般的に植物の香りについては関心の低い人が多かったと思います。それが変わってきたのはガーデニングが盛んになって女性が庭造りの主体になる事例が増え、庭の主木がマツからバラに変わるという大変化が起こったからです。以前の庭であれば香りの代表は春のジンチョウゲ、秋のキンモクセイだったのですが、今では香る植物と言うと真っ先にバラを思い浮かべるようになりました。しかし、造園業者(大半は男性)にはまだバラは苦手という人が多く「香りのある庭」という発想が浮かびにくいのでしょう。それを如実に示すように、この本の各章の筆者が企画監修の近藤三雄さん(東京農大名誉教授)以外はほとんど女性です。私も上に述べたようにこの本を読んで初めて植物の香りが持つ力について真剣に考えてみようという気になりました。

  造園の植栽計画、植栽デザインをする時は、植物によってどんな魅力をその計画地に作り出すことができるか、ということが出発点になります。香りを導入してそれを楽しんでもらえれば庭や公園に新しく変化のある魅力が生ずることになります。

  従来造園植栽計画において香りがさほど重視されなかったもう一つの原因は、香りは目に見えないので文章や映像で伝えられなかったためだと思います。これは香り植物導入を進める上でかなりのハンディキャップではないでしょうか。これを克服するには、地道なようでも機会あるごとに香る植物を植え、その心地よさを体験してもらうのが「急がば回れ」の方策だと思います。

  以前台湾に行ったとき、夜になってから宿舎の外に出ると薄闇の園路に何とも言えない甘い匂いが漂っていて「ああ、これが南国の夜の匂いなのだ」と感嘆したことがあります。「その匂いの中の散策をするためにもう一度台湾に来たい」と思ったほど蠱惑(こわく)的な匂いでした。

  そのような体験をする人が増えれば庭や公園に香り植物を植えてほしいという要望も多くなるでしょう。


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