盛岡タイムス Web News 2015年  10月 12日 (月)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉第237回 カスターニャの季節 及川彩子

 

     
   
     

 日ごとに庭のツタの葉も色付き、紅葉そして実りの秋本番を迎えるアルプス高原。夏の間、標高2千b級の放牧地で過ごした羊や牛の群れが山を下り始めるこの時期、「ガラガラ…」と、どこからとなく聞こえてくるカウベルの音に、日本の山車の掛け声が懐かしくなります。

  ヨーロッパの秋の楽しみと言えば、子どもから大人まで、みんなが待ちわびる焼きぐりの屋台。イタリア式焼きぐりは、皮ごと、穴の開いたフライパンで直火で豪快に焼き上げるもの。ホクホクと、クリの甘みが、冷えた体に浸み込んでいくのです。

  ヨーロッパを巡ると、その焼き方もさまざま。以前訪ねたポルトガルのリスボンの街角では、煙突の付いた金属製の容器にクリと荒塩を入れ、炭火で焼き上げる屋台にくぎ付けになりました[写真]。見回すと、あちこちの屋台から、真っ白い煙が噴き出し、香ばしい匂いが漂ってくるのでした。

  クリはイタリア語で「カスターニャ」。古代から、世界中で食べられてきたクリは、主に欧州系とアジア系に分類され、欧州栗の特徴は渋皮が剥がれやすいこと。パリパリと渋皮が落ちる焼きぐりが、こちらの風物詩なのは、そんな理由からかもしれません。

  日本には、「火中の栗を拾う」ということわざがありますが、それは本来、欧州の焼きぐりが元なのだとか。ずる賢い猿におだてられた猫が、炉端のクリを拾うものの、片っ端から猿に食べられてしまう…という古い欧州の寓話で、「他人のために危険を冒す愚かさ」の教訓です。

  クリの名産、世界5指に数えられるイタリアでは、季節限定の栗料理もさまざま。粉にして煮込んだお粥から、クリのクリームパスタ、クリ入りオムレツ…また、塩味の効いたスープに、ゴロゴロとクリを入れたリスボンでの味も忘れ難いのですが、わが家では専ら、キノコと炊き込んだ、くりご飯です。


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