盛岡タイムス Web News 2015年  10月 31日 (土)

       

■ 〈体感思観〉 編集局 戸塚航祐 日本酒の仕込み水


  10月1日が日本酒の日と知ったのは、日本酒造組合連合会が主催した「全国一斉日本酒で乾杯!」の取材当日のことだった。会場には県内の今年の新酒のほか、ヤマブドウを使ったリキュールなども置かれた。メーンの日本酒は、仕事で行ったため飲めないことを悔やむほどの味わいであることは想像に難くない。その会場の隅に、一般人が飲むことがない「蔵元の仕込み水」試飲コーナーがあった。

  うまい日本酒を作るために必須となる水。水の良しあしは、日本酒全体の完成度に大きく影響する。醸造する酒蔵で使う水は、井戸水や沢水など。地域色が出る酒の味の一つの要素と言える。自分たちの酒の原料となる水は重大な企業秘密。この水を飲ませてくれるのだから、日本酒好きとしては見逃せない。

  会場で飲めた仕込み水は、八幡平市の「鷲の尾」、釜石市の「浜千鳥」、紫波町の「堀の井」など。鷲の尾の水は、常温で飲むと硬水のような硬さが残った。岩手山の熔岩流でろ過されたからか、水に不純物が感じられない。逆に丸みを感じさせたのが浜千鳥の水。仙人峠の水とは違う、口にほのかな甘みが残る。飲んだ人の体調で感じ方が変わるが、来場者は「この水があの酒を…」と感心していた。

  同連合会によれば、日本酒の歴史は記紀神話の時代にさかのぼる。ヤマタノオロチ退治で八塩折の酒(やしおりのさけ)を使って眠らせたのは有名な話。県酒造組合の平井滋会長は「乾杯の前に『あとは無礼講で…』と言われるが、乾杯前までは礼講。神事の名残だ」と会場で説明している。

  日本酒は、神前婚などの神事で神様と人が一緒にいただく最高のごちそうだった。これからの季節は、温泉につかり澄んだ冬の月夜で飲むのもよい。記者個人としては、炭火であぶったサケトバを食べつつ熱かんを飲みたい。酒がうまければ、みそと塩だけでも至福を感じられるだろう。

  しかし、深酒には気を付けねばならない。ヤマタノオロチ退治に使った八塩折の酒は「何度も醸造を重ねた強い酒」という意味。酒飲みならば一度は飲みたい酒だが、飲み過ぎれば体を壊す「酒の毒」の象徴とも言える。酒に飲まれてヤマタノオロチのように首が落ちないよう、適度に楽しみたいものだ。


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