盛岡タイムス Web News 2015年  11月 2日 (月)

       

■   〈八幡平だより〉8 今川友美 後からじわり再び会いに


     
   一番好きだというブナの前でポーズをとる福島さん。「冬は、これまで葉に覆われ見えなかった樹形を見ることができる、それはそれでいい季節なんだ」(4月8日撮影)  
   一番好きだというブナの前でポーズをとる福島さん。「冬は、これまで葉に覆われ見えなかった樹形を見ることができる、それはそれでいい季節なんだ」(4月8日撮影)
 

 やさしく青みがかった乳白色の湯が特徴の八幡平の松川温泉は、ブナやミズナラの原生林に囲まれた秘湯として知られる。55歳で会社退職後、幼い頃からの自然好きが高じて自然ガイドとなった福島亨さん(71)が、峡雲荘の宿泊客に四季折々の変化を案内する「朝の散歩」を続けて10年がたった。

  10月下旬の朝6時半、山の中腹の気温は4度。10数人の宿泊客らが、両手をこすり合わせながら集まってきた。すでに紅葉は里へと下り去り、降り積もった落葉の、よりカサカサとした踏み心地が、なんとなく冬の気配を感じさせる。

  福島さんと私の出会いは、6年前にさかのぼる。東京で新聞記者をしていた頃、やっと遅い正月休みがとれて、3泊4日の湯治をしにここを訪れた。旅人≠ニは言えなくなってしまった今も、そんな縁もあり、福島さん会いたさに眠い目をこすりながら、ちょくちょくと参加させてもらっている。

  この近辺には、人々が「立派だねえ」と仰ぎ見たくなってしまうような樹齢400年以上の大木もたくさんあって、それはそれで見事なのだけど、福島さんが特に足を止めたくなってしまう樹というのは、どこにでもありそうなごくごく普通のものだったりする。

  幹が何度もねじくれた不格好な木も「途中、彼に何か起こったんでしょう」なんて、ぼそっと言う。私は、そうですねえ、と曖昧な返事をしただけだったけど、半年後くらいにじわじわきて、それでも生きてるなんてえらいよ君、と握手を交わしにまた会いに行きたくなってしまった。

  自然のスパンからみれば、人の一生なんてたかがしれているけど、福島さんと歩いていると、自分も彼らと同じように時を重ねてきたような、時間軸の概念がうねり始めていく不思議な感じに包まれていく。

  この日も、方位磁針がない時代ならではの山の人の生きる知恵や、雨水が樹肌をつたい「銀の雫」のように流れるブナ特有の美しい現象の説明に、宿泊客らは目を輝かせた。かつての私がそうだったみたいに。

  「また別の季節にここを訪れたいです」。最後にそう声をかけられるのが一番うれしいと福島さんは話す。
  (八幡平市地域おこし協力隊員)


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