盛岡タイムス Web News 2015年  11月 12日 (木)

       

■  〈風の筆〉126 沢村澄子 「お土産 福田パン」


 いやいや新幹線に乗る。いつもは夜行バスもっぱらのわたしなのだけれど、今回ついに準備が間に合わず、個展搬入当日にして東京行きの「こまち」に乗車。

  しかし、高いなぁ、と思わず券売機の前でため息が出た。新幹線料金は普段わたしが乗っているバスの約4倍だ。でも、いいこともあるぞ。盛岡駅でお土産が買える。やっぱり、夜に立つより何だかニギニギしくて、活気があって、元気だって出てくる。

  車内で食べるのに、改札脇の福田パンのガラスケースをのぞいて、チリドックに決めた。レジでお金を出してるうちに「そうだ!」と思い付き、搬入の手伝いに来てくれる人の分も買うことに。あんバター、チーズクリーム、カスタード…。「面白いところで粒入りピーナッツなんていうのもありますよ」とレジのお姉さんに薦められてお手拭きも7人分。「自分一人で食べようなんてねぇ…。いいお土産ができました!」と言ったら、お姉さんが笑って「お気を付けて」と言ってくれた。山田の醤油(しょうゆ)もギャラリーのオーナーに。これはお刺し身によく合います。

  それで、スーツケースを転がし、でっかい布袋を一つずつ両肩にぶら下げ、さらにパンや醤油やらが入った紙袋、これは口にくわえたいくらいだったが、そんな家出か夜逃げのようなかっこうで「こまち」の通路を歩くのはギリギリなのである。体を横にしたり、荷物を上げたり下げたり持ちかえたりして、座席や人にぶつからないようぶつからないよう、立ったままのほふく前進?のようにして自分の席を探す。通路側のお客さんたちがみんな、思わず肘置きからその肘を引っ込めて、すごい格好のわたしを通してくれた。

  やれやれとようやく座って、ブランチのチリドック。家から持ってきた水筒のお茶でホッとしたところで、いざ、ではモリタイさんの原稿を書こうとパソコンを開く。ところが、何と充電不足。コードはあるが、残念なことに席は通路側。ならば、ならばと、ガラケーでこの原稿を打ち出すことにした。

  そしたらもう、いつの間にか仙台を過ぎていて、次は大宮だというのである。さすがに新幹線は速い。寝るひまもない。それより、打ち終わる前に着いてしまうんじゃないか。あっ、景色も見なかった。安達太良山の辺り、雪や紅葉はどうなっていたのか。福島駅のあたりはどんな感じになっていたのか。

  しかし、ガラケーで作文というのも悪くないね。思ったより時間もかからない。いや、もしかしたら、パソコンで打つより速いのかもしれない。包丁1本さらしに巻いて、と昔誰かが歌っていたけど、いつの間にか親指1本で作文ができる時代になっている。筆だと指が3本必要だし、紙や墨や硯(すずり)なんかも用意しなければならないのだけれど。

  さて、次は上野というアナウンスだ。また、引っ越し荷物を棚からひきずり下ろして、半月ほどホテル暮らし。東京はきょう最高気温20度だという。時間も空間もびゆんびゆんと飛び去ってゆく。大柄な外人さんたちは半袖Tシャツ1枚の夏のような姿。さてさてと、ついに最後の荷物を棚から下したら、そこから福田パンが1個転がり落ちた。
     (盛岡市、書家)


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