盛岡タイムス Web News 2015年  12月 22日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉242 飯島彩子 じゅうたんの郷愁


     
   
     

 ヨーロッパの住まいに欠かせないものの一つに、じゅうたんがあります。美的感覚や質の高さが、その家のステイタスを誇示するばかりでなく、土足で踏み入るヨーロッパの家の、冷たい石や板の間にじゅうたんがあると、温もりを感じると同時に、その家の歴史までもが伝わってくるのです。

  じゅうたんと言えば「ペルシャ」。西アジアの砂漠の遊牧民の文化として始まったその歴史は、何千年にもさかのぼり、羊を放牧し、毛を押し固めてフェルト加工しては敷物や寝具にし、さらに糸を紡ぎ、じゅうたんへと発展させたのです。

  完成までに、数年を要すので高価。1a四方に何千という結び目を作りながら編み込んでいく、気の遠くなるような手作業は、集中力と視力の充実した10代の乙女の仕事と聞きます。一枚に込めた時間と気力は、本来、値段では推し計れません。

  ここイタリアにペルシャじゅうたんを伝えたのは、12世紀の十字軍ですが、以来、アンティーク好きのイタリア人にとって、ペルシャじゅうたんを敷くのは一種の誇り。踏めば踏むほどに艶が出るばかりでなく、耐久性も80年と優れ、孫子へと受け継がれます。100年以上経たアンティークには、値の付けられない品もあるとか。金・宝石に次ぐ財産であるゆえんです。

  けれども値段や大きさにかかわらず、どの家でも、洗濯は一苦労。ある田舎を旅した際、町はずれの、谷川を利用した共同洗い場で、じゅうたんを川の流れに丸ごと浸して洗い流し、背丈より大きなそれらを屋根に並べて干す子どもたちに出くわしたことがあります[写真]。

  その村では、習慣的な子どもたちの仕事なのか、しばらく遊んだ後、乾いたじゅうたんを慣れた手つきで丸め、器用に肩に背負い家路へ…その光景は、とてもほほ笑ましいものでした。

  ペルシャ製であれ、どこの製品であれ、家族で受け継いでいくものの価値。街のショーウインドーを眺めるたび、あの子どもたちの姿が思い出されます。
 


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