盛岡タイムス Web News 2016年  2月 10日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉474 伊藤幸子 「真打ち誕生」


 吃(ども)る人の吃る苦しみ落語家はまざまざと演じ笑はしめたり
                                    吉田桂介

 2月2日にテレビ朝日「徹子の部屋」が40周年を迎え、2月初めから豪華ゲストの出演でにぎわっている。その少し前、1月26日は落語家立川談春さんの出演だった。私は年明けごろ、談春さんの著書「赤めだか」を読んだばかりだったので、タイミングといい若手はなし家さんの登場にわくわくした。もえぎ色の着物姿にこぼれんばかりの香気が漂う。

  昭和41年東京生まれ、17歳で高校を退学し、立川談志に入門。ところが内弟子はとらないと言われ、新聞配達をすることにした。その会話がおもしろい。「よし、弟子にしてやる。十七で家を出て新聞配達をしながら修業したなんて、売れたあとでも自慢になるぞ。黒柳徹子が涙ぐんで『御苦労なさったのねエ』なんてお前に聞くぞ」というくだり。「なんで黒柳徹子が出てくるのかよくわからなかったが、談志は上機嫌だ」との場面はまさにこの日の予言のようで感慨深かった。

  立川流で二ツ目になるための課題は、古典落語を五十席覚えることだという。そして談志が選んだ根多(ねた)をその場で演じ、師匠を納得させられれば入門半年でも二ツ目になれる。

  「お前は俺の弟子なんだから、落語は俺のリズムとメロディで覚えろ」「芸は盗むものだというがあれは嘘(うそ)だ。盗む方にもキャリアが必要だ。盗めるようになりゃ一人前だ」そして「師匠なんてものは、誉(ほ)めてやるぐらいしか弟子にしてやれることはないのかもしれんと思うことがあるんだ」との述懐は深い。

  ある日、談志は談春に言った。「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と口を切り、「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱味(よわみ)を口であげつらって自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬というんだよ」と説いた。

  このころ放送作家の紹介で大学出の志らくが入門。談春より3歳上、落語を覚えるのが早かった。若者のじりじりする妬心がよく分かる。

  17歳で入門した時に「22歳まで二ツ目になる」と目標を定め、やがて昭和63年夏、立川流では9人の二ツ目が誕生した。はなし家は真打ちより二ツ目になったときの方がうれしかったというが、でもスタートラインは真打ちだ。

  おれが驚かせたいのは立川談志だ。平成9年、談志をゲストに迎えて第1回の真打ちトライアルで談春は「包丁」を演(や)った。そして「昨日の包丁な、おれより上手(うま)かった」と聞き、体が震えた。平成9年談春は真打ちになり、23年、談志が世を去った。(八幡平市、歌人)



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