盛岡タイムス Web News 2016年  3月 16日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉479 伊藤幸子 「原発避難」


 この世には妖しい生き物がいるという/それらのことを妖怪というのだそうだ/ところが未知なるもの/放射能という巨大なばけものが/ところかわまずやって来た/そしてみんなが逃げだした/おれもだ/もう誰にも会うことは出来ない(一部略)。
                                  根本昌幸

 3月1日発行の「コールサック」85号より。「妖怪」と題した34行の詩、さらに「前へ前へと」「猫が行く」と続く一連に、目で文字を追い、声で生を確かめる。呼びかけ、応えるなまの感触に「生きる」実感を味わう。

  3月5日、NHKスペシャルで「原発避難・7日間の記録」が放映された。その冒頭に、ボール遊びをしている男の子が映り、自宅退避といっても外で遊びたかったと話す姿。続いて「ばあちゃんだべした、これ」と写真に見入る初老の夫婦、アッ、根本昌幸さんと奥さんの洋子(みうらひろこ)さんだ。原発から10`圏内で被災した浪江町住民はその後帰宅困難地域となり、何度も避難所を転々として、現在は相馬市に在住。お二人とも現代詩壇の重鎮で著書多数。娘さん夫婦を亡くし、祖母も避難所で送った。つかのまだったがテレビで3人の顔を見、声を聞いて涙が頬を伝う。5年前、浪江町西病院には67人の患者がいたが避難できず自衛隊も出動したという。あの西病院で私は3人の子らを出産した。40年も前のこと、詩人も歌人も、お世話になった方々の生活が根こそぎ失われてしまった現実がどうしても納得できない。

  翌6日、同NHK「被ばくの森はいま」では浪江駅前の廃屋や、街路を走り回るイノシシ、柿の木の周りに群がる大小の動物がいた。南相馬市小高地区では柿の木をすべて切ったと伝える。わが家でもそうだが柿は屋敷木として先祖から伝えられているもの、伐採は心が痛む。

  恐ろしい放射能の影響は、浪江町のツバメの異常を見せる。雄の尾羽左右の差が4・9_もあるという。松の木は芯のないものが40%以上もあり、さらに動物の内部被ばくに関しては血球を作る細胞の研究が待たれるとの報告であった。

  みうらひろこ詩集「遺言」では、被ばくした牛が後から生まれた牛に「食べられる草と食ってはなんねえ草/これだけはよーく守れよ覚えておけよ」と遺言を告げる。

  「真夜中のアトリエの/馬や武士の勝ち鬨(どき)は/決して外に漏れることはないはずだが/夜の張りのほんの綻びから/相馬の人達は/ふと耳にすることがある」(一部略)

  夏草を蹴たてて、ご神旗一番乗りをめざす騎馬武者たちの「相馬野馬追」を流星のように思い出す。
    (八幡平市、歌人)



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