盛岡タイムス Web News 2016年  4月 9日 (土)

       

■ 〈体感思観〉 編集局 相原礼以奈 人を救い人の救われを祈る


  東日本大震災から5年という機会に、多くの人から当時の体験を聞いた。盛岡の職場で揺れを感じ、後にテレビで沿岸の映像を見て衝撃を受けた人。宮城県沿岸に出掛けていたが、少しのタイミングの違いで津波に遭わずに帰ることができた人。写真展を開催中だったという人など。

  ちなみに私は、就職活動中の学生だった。今自分は何をしているべきなのか、誰に言うでもなく悩んでいたのを覚えている。当時の記憶は誰もが鮮明である。目に見える喪失の有無にかかわらず、みんながそれぞれに痛みを味わって、それが今も少なからず続いているのだと感じた。

  作曲家の高橋裕さんは震災の前日、京都府民ホール「アルティ」の委嘱で手掛けたオペラ「双子の星」(原作・宮澤賢治)を完成させた。翌日は震災発生により教員を務める高校に泊まったが、8日後の3月19日には同ホールで初演した。

  今年3月21日の本県初公演を前に取材した際、高橋さんは「この物語には自分を捨ててまで人を救う、人の救われを祈る、切実な心の温かさがある。京都の初演でもお客さんは感動してくれて、大変なときにやった意味もあったかなと思う」と話していた。

  3月8日には、盛岡市出身の声楽家・村上千秋さんが盛岡市内のジャズバーで、大学院の同級生と2人でリサイタルを開いた。大船渡市出身の祖母について「最近ニュースなどであまりにも震災のことをやりすぎていて、ちょっと元気がない。私が歌をやっている姿を見て、元気になってもらいたい」と明るく話してくれたことが印象に残っている。

  沿岸被災地の復興事業は、まだまだ進んでいないという声が多く聞かれる。その一方で、震災を直接的にも間接的にも経験した全ての人の心もまた、長い時間をかけて癒やされる必要があるのではないか。その根気の要る活動に挑む人たちの姿は、とても尊く思える。文化活動による復興応援は、今後さらに重要性が高まってくると感じている。


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