盛岡タイムス Web News 2016年  5月 9日 (月)

       

■  「孤狼の血」で待望の受賞 釜石出身の柚月裕子さん 盛岡で小学時代過ごす “裏の正義”描き出す 第69回日本推理作家協会賞


     
  第69回日本推理作家協会賞を受けた柚月裕子さん  
  第69回日本推理作家協会賞を受けた柚月裕子さん
 

 釜石市出身の小説家・柚月裕子さん(47)=山形県山形市在住=が第69回日本推理作家協会賞(4月19日選考)を受賞した。柚月さんは小学2年から5年までの間を盛岡市で過ごし、同市立山岸小で学んでいる。受賞作「孤狼の血」(KADOKAWA)は、昭和末期の広島県を舞台に、警察と暴力団の対立を描いた作品。これまで直木賞など三つの賞の候補にノミネートされながらも受賞を逃しており、今回は待望の受賞となった。5月12日発売の「小説野生時代」6月号で同作の続編の連載を開始する柚月さんに、受賞の気持ちや執筆への思いなどを聞いた。(全2回)

─日本推理作家協会賞を受賞したときのお気持ちは。

  謙遜ではなく、本当に信じられなかった。これまでの賞でもらった選評が非常に厳しいもので、自分がいかに作家として未熟であるかを痛感していた。そういうこともあり、今回も受賞はないだろうと。当日は出版社のKADOKAWAで、担当編集者と結果を待っていたが、最初からその後は残念会に流れようという雰囲気だった。

─そうした中での受賞は。

  受賞の電話をもらったときは戸惑いが大きかったが、担当編集者がほっとした表情をしていたのが印象に残っている。

─これまでの選評はどんなものでしたか。

  名だたる諸先輩方、作家の先生方のご意見。作品の講評でありながら、作家としてどうあるべきかということを見据えたご意見も多かった。作品の筆力もまだまだ未熟だが、人間としても未熟であったと感じさせられた。

─同作のノミネートは4回目ですが。

  ノミネートしてもらったことも大変励みになる。ノミネートの段階で、審査員の方々の講評がもらえることになる。それが一番うれしいことだった。成長したいと思ったときは、今の自分のどこが良くないのか、そこに気付くのが一番だと思う。

─受賞作「孤狼の血」は警察と暴力団の話ですが、物語の発想のきっかけは。

  最初は「小説野生時代」(KADOKAWA)の連載として、「警察小説を」という依頼を頂いた。警察小説は、これまでに名作と言われるものが多く書かれているので、どうしようかと。私はこれまで弁護士や検事など「表の正義」を書いてきたので、裏の正義、真逆のところの正義を書いてみようと。そのとき、悪徳警官というキャラクターが浮かんできた。それに対するもの、結び付くものとして暴力団、そして下に付く新人刑事を思いついた。

─取材はどのように。

  「孤狼の血」に関しては、人物取材はできなかったので、実録やノンフィクションをだいぶ読み込んだ。この作品に限らず、小説を書くときはまず本を資料にする。インターネットで得られる情報はデータ的なもの。作品の舞台となる土地には、五感で感じる暑さや匂い、感覚が欲しくて必ず足を運ぶ。連載が始まる前に広島市と呉市に行ってその土地を歩いた。

─広島が舞台なのは。

  物語を作っていく上で、事件が起きるべくして起きる土地。「孤狼の血」は暴力団が登場するため、リアリティーを出すために西を舞台にしようと。映画「仁義なき戦い」が好きだったので、その思いも込めました。

─作中の広島弁も楽しく読めます。

  監修は入れてもらったが、広島弁の持つ強さ、魅力には徹底してこだわって書いた。本場の広島弁を聞きたいときにはどういう場所に行ったらいいかと友人に聞いたら、「野球場しかない」と言われた。マツダズームズームスタジアム(プロ野球・広島カープの本拠地)に行って客席に座っていたら、私の望んでいた広島弁が聞けた。あまりに広島弁に夢中になっていたので、その試合で広島が勝ったか負けたかも覚えていないほど。

─他に広島で訪ねた場所は。

  原爆ドームや記念館にも行った。原爆の落ちた直後の何もない風景を見ると、岩手出身の人間として、5年前の震災を思い出す。自分の中で重なるところがあった。そういったときに外に出ると、人や車の通る今の広島の街がある。夏、原爆の落ちた季節に行ったこともあり、復興を遂げた広島の街、人々をすごいなと思った。何もないところから作り上げた人々の持つ強さや熱さが、自分が作品で描きたい話と重なった。そこで、舞台は広島と決めた。

─同作は登場人物も魅力的です。人物を描く上で工夫していることは。

  物語の中には出てこないが、登場人物の生い立ちは全部考えている。どんな幼少期を過ごしてきたか、この場面でこの人物だったらどうするか、どういう決断をするかということを考えている。小説はうその世界なので、いかにリアリティーを持たせて読者に納得してもらうか。生い立ちを自分の頭の中で分かっていないと、リアリティーや説得力は生まれない。
  (聞き手・相原礼以奈)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします