盛岡タイムス Web News 2016年  9月  21日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉506 伊藤幸子 銭形平次朗読会


 提灯を木深くさげぬ秋祭
                富田 木歩 

  「神田祭は九月十五日。十四日の宵宮は、江戸半分煮えくり返るような騒ぎでした」ここはご存知銭形平次の生みの親、野村胡堂・あらえびす記念館ホール。9月11日午後1時半より、IBC岩手放送アナウンサー大塚富夫さんによる「銭形平次捕物控朗読会」の開幕だ。

  同館では企画展「わっしょい!江戸の大祭り」展示解説もしていて楽しめる。氏の朗読はもう6回目とのこと。今回は「赤い紐」、折しも紫波町大巻の堤嶋神社の名入りの半纏を召されてよくお似合だった。

  9月14日の宵宮に、事件は起きた。「親分、た、大変」ととびこんできたガラッ八の八五郎。「金沢町の油屋の一人娘お春というのは、今年十九の厄(やく)、あまり綺麗過ぎるのと、美人にありがちの気位の高いのが災(わざわい)して、その頃にしては縁遠い方でした」ドキドキしながら江戸の祭の事件へといざなわれてゆく。

  平次が金沢町に駆けつけた時は、もう行列を整えて近辺にくり出そうという時分。しかし、山車の先頭に花形のお春がいない。

  時刻は移り、平次は提灯を振り回して淋しい聖堂前の方を探す。オヤ、道傍の崖から白い布を拾い上げた。二つ三つの提灯を崖からさし出すと、その頃はまだ藪(やぶ)も段々もあったお茶の水の崖の下に白い女の死体が横たわっていた。

  あやしい人物は3人。殺されたお春の許嫁で酒屋の倅の長吉。秋には祝言予定の2人は、宵宮の聖堂裏で立話をしたが四半刻(30分)もせずまた祭りに戻った。

  次は畳屋の辰蔵。お茶の水の崖で手拭を落としたという。手拭の端に辰蔵の頭文字「た」と書いてあるというが、崖で拾った手拭には何も書かれてなかった。

  長吉でなく、辰蔵でなく、ならば下手人はやっぱりお勢か│。「いや、お勢ではない。あの「た」の字は偽筆で、お春とも仲がよかったし、女の細腕で殺して聖堂裏からお茶の水の崖まで引きずって行けるわけがない」と平次。

  翌日9月15日はいよいよ神田祭の上天気。群衆とヒョットコ、オカメの玄妙な踊り。ひとしきり祭りのさざめきの去ったあと、「親分、すまねえ、恐れ入った。お春はたしかにこの市五郎が殺したに違えねえ」と告白する男。

  たった一人の話術で娘になり、若者になり、親分にも下手人にもなって人々を物語の核心に導く。さすが稀代のナレーションに胡堂先生もご満悦かと、記念館に割れんばかりの拍手がとどろいた。
(八幡平市、歌人)


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