盛岡タイムス Web News   2017年 11月  27日 (月)

       

■  視線入力訓練ソフト 難病患者の世界広げる NHKの第44回日本賞で最優秀賞 伊藤史人(島根大)助教ら開発「アイモット」


     
   「アイモット」で日本賞を受賞。障害者のコミュニケーション支援に意欲的に取り組む伊藤史人島根大助教  
   「アイモット」で日本賞を受賞。障害者のコミュニケーション支援に意欲的に取り組む伊藤史人島根大助教
 

 島根大総合理工学研究科の伊藤史人助教(42)=岩手大、岩手県立大ソフトウェア情報学研究科卒=が中心になって開発した重度障害者向け視線入力訓練ソフト「EyeMoT(アイモット)」が、このほど、教育関連のテレビ番組やコンテンツなどを表彰する国際コンクール「第44回日本賞」(NHK主催)で、最優秀の経済産業大臣賞を受賞した。視線をパソコン画面に送ることで風船を割ったり、的を撃ち落としたりするゲームで、初心者でも楽しく視線入力の感覚を体感できる。伊藤助教は「必ず成功することで次につながる。コミュニケーションのバリアフリー化を進め、障害者が可能性を広げるきっかけを作りたい」と意欲を燃やす。(馬場恵)

■楽しく入力法学ぶ

  日本賞にはコンテンツ、企画の両部門に計309作品がエントリー。このうちソフトウエアやウェブサイトなどを対象にした部門にはアイモットを含め、18カ国から47作品の応募があった。

  視線入力は、視線だけでパソコンに文字などを入力するシステム。難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)や脳性まひなどで体の自由が利かない人でも、周囲に自分の意思を伝達できる。中には世界中の仲間と通信したり、ネット環境を駆使して仕事をする人も。ただ、自由に意思を伝えるようになるためには、入力に慣れる必要があり、スキルが身に付く前に、あきらめてしまう人も少なくなかった。

  そこで、開発されたのがアイモット。視線を感知する範囲を広く設定しているため、風船割りでは、大まかに風船を見ると割れる。成功体験の積み重ねで、やる気を持続させ、より高度な操作の習得につなげる狙いがある。「割れる」「当たる」といった感覚を体感してもらうため、画面に連動して手元のクッションが振動する装置も導入した。

  アイモットのアプリケーションはネット上で無料公開。これまで5千件のダウンロードがあり、少なくとも500〜600人は日常的に利用しているとみられる。重度障害があり、これまで意思疎通ができないと思われていた子どもが、この装置で反応を示すと、家族ら周囲の態度も前向きに変わる。

  伊藤助教は盛岡市に家族がおり、島根大に単身赴任。各地でワークショップを開くなど障害者のコミュニケーション支援に取り組んできた。「一つのきっかけが、その人の生きようとする力となり、人生を変えることさえある」と力を込め、さらなる貢献を誓う。

     
  視覚入力でLINEにも挑戦したいと意欲を燃やす盛岡市のALS患者  
  視覚入力でLINEにも挑戦したいと意欲を燃やす盛岡市のALS患者
 


■「娘とLINEしたい」盛岡市のALS患者

「夫と毎日、会話できていいです。けんかばかりですが」…。ALSを患う盛岡市の女性(66)は視線入力でパソコンを操作し、家族らと会話できる環境に感謝した。

  3年ほど前に発症し、今年4月に人工呼吸器を挿入。体はほとんど動かず、訪問看護師と夫(66)の介助を受けて暮らす。意思伝達機器の環境が整う前は、文字盤を見ながら、まばたきすることが、思いを周囲に伝える唯一の方法だった。

  東京に住む長女(33)が伊藤助教のブログを見て支援を求め、スイッチや視線入力による意思伝達の環境を整備。公費助成で機器を自宅に導入した県内初のケースとなった。

  女性はもともとパソコンを使った経験がある。視覚入力を覚えるのは比較的、スムーズだったが「アイモット」での成功体験が「母の自信になったと思う」と長女は振り返る。女性は離れて暮らす長女と「LINEをしたい」と意欲的だ。

  妻の日常を支える夫(66)は「愚痴を言ったり、けんかもしたり。必要最低限の意思伝達ではなく、言いたいことが滑らかに伝え合えるようになった」と会話ができる喜びをかみしめる。

  「コミュニケーションの支援機器を使える環境は地域によって差があり、公費助成のハードルも高い。患者の状態は日々、変化し、必要な機器も変わる。患者や家族の負担なく積極的に利用できる環境が整ってほしい」と願った。


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