盛岡タイムス Web News   2018年  1月  27日 (土)

       

■ 〈体感思観〉 編集局 藤澤則子 早逝の父を考える本


 「父でありすぎる」。第158回直木賞を受賞した門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」(講談社)が話題だ。宮沢賢治の生涯を、父・政次郎の視点から描いた作品。本文最初の「父でありすぎる」という見出しからも、地元の名士である政次郎と本来は家を継ぐべき長男・賢治との(さらに政次郎の父・喜助との)、父子の関係性が興味深く、面白く読ませてもらった。

  盛岡市の詩人・森三紗さんは、賢治との交友で知られる作家の故・森荘已池さんの四女。このほど評論集「宮沢賢治と森荘已池の絆」(コールサック社)を刊行した。「山畠」「蛾と笹舟」で本県初の直木賞(1944年)作家となった荘已池さんは、賢治やその作品についての文を多く残している。

  森さんに父親としての荘已池さんについて聞くと、「娘にも厳しかったですよ」。後に、「(自分の仕事の)『半分の跡を継げ』と言われて、とてもとても。それでも半分 ≠ニいうところに父の優しさを感じるんです」と表情を緩めた。

  荘已池さんが宮澤賢治全集の編集のため、花巻の宮沢家に泊まって聞き書きしたエピソードも興味深い。目の前でメモを取ると自然な聞き取りができないため、頭の中の記憶だけを頼りに夜、ノートに書いたという。

  思わず「その能力、欲しい!」と声に出してしまったが、森さんの著書「宮沢賢治と―」もやはり、賢治の友人だった父をはじめとする関係者へのつぶさな聞き取り、荘已池さんと同じ念入りな実地調査を感じさせる労作だ。

  記者の父は町役場の職員だったので、特に継ぐべき仕事はなく、同じ社会人として何かを聞こうにも、私が学生時代に40代で他界。年齢だけは父を越えてしまった。

  父との関係を考える中、門井さんの小説で家長自ら病床の賢治の看病をする政次郎さんの姿に、幼少の記憶をすくい取られた。のんのんと雪が降る夜、おなかが痛くて布団の中でうなっていた私を毛布ごと背負い、町の診療所まで連れて行ってくれた父。

  心に残っていたさまざまなことを思い出し、宮沢賢治の父・政次郎さんが身近に感じられた。
 


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします