盛岡タイムス Web News   2018年   7月  27日 (土)

       

■ 〈体感思観〉 大崎真士 懐に入る極意を



 先日、柔道で五輪三連覇の野村忠宏さんの取材をした。1974年生まれの同い年。当方も小中高、大学の途中まで、柔道に明け暮れる日々があった。

  バルセロナで古賀稔彦さんや吉田秀彦さんの金メダル獲得に沸いた高校時代。無理なトレーニングや稽古を重ねて、けがばかり。その後20歳を迎えてから今まで、一度も道着に袖を通したことがない。

  一方、けがや年齢と戦いながら3年前に引退した「同級生」の姿は、まばゆかった。岩手の小学生たちの前で披露した背負い投げには、美しさがあった。

  野村さんがアドバイスしたのは、相手の懐に入る一歩目。深く入り過ぎても浅くても、だめ。絶妙の間合いを作るため、釣り手の重要性も強調した。

  「懐に入る」のは、実に難しい。私生活はもちろん仕事もそうだ。取材にあてはめれば、相手の懐深く入り込めば距離は縮まっても、批判的な言動がしにくくなってしまう。相手も喜ぶ情報しか記事にしない恐れもある。

  浅ければ浅いで、相手の気持ちや動機が分からず、事の本質や真相にたどり着けない。核心から遠ざかり、体裁を取り繕った浅い記事になる。

  キャリアを積めば克服できるとも限らない。知識が増え、技術が上がると慣れが生じる。若手みたいに労せず取材して記事にできるが、自ら感動・発見する気持ちが薄れる。無味乾燥な記事になり、読者のそれらを得るチャンスまで奪いかねない。

  やはり「絶妙な間合い」は必要だ。頼めば取材させてくれる│そういう安易な態度は、いけない。こちらの都合や理屈で、どうにもならないことはあまたある。そこに挑まなければならない時が、しばしばある。

  最近、初心を思い出す取材ができた。その矢先に取材した野村さんの指導。的確で理にかなっていた。今だから理解できた気がする。柔道をしていた当時、その教えに出合っても、聞く準備ができていなかったと思うから。

  「懐に入る」極意まで、道は長い。


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