2016年 12月の天窓


 2016年  12月 30日 ― 樋口一葉の時代と今日の貧困 ―
 「晦日(みそか)まで金二両、言ひにくゝ共この才覚たのみ度よしを言ひ出しけるに」。年の瀬の寒さがひしひしと伝わる描写で始まる樋口一葉の短編「大つもごり」の文中
▼両親を亡くしたお峯が世話になってきた伯父が床に伏し、借金した10円の利息を大みそかまでに返済しなければならず、お峯が伯父に2円の用立てを約束する。お峯は奉公先の家に前借りを頼むもかなわず、「私は悪人になりまする」と懸け硯の中の20円から2円を盗み取る。「成りたうは無けれど成らねば」と行うも、罪の意識から白状しようと揺れ動くお峯の心理に読者として赦免の念を禁じ得ない
▼一葉が5千円札となった折、極貧で苦労した彼女の短い生涯が持ち出されたものだ。「大つもごり」が発表されたのは1894(明治27)年。一葉はこの年当時の本郷区丸山福山町に引っ越して荒物雑貨・駄菓子店をしながら執筆していた
▼高利貸しからの借金でなくとも、掛け売りが一般的な時代は、その年のうちに代金を納める信用商売。金策に追われる年の瀬は時代劇に出てくる
▼今なら一葉も生活保護を受けられたかもしれない。だが、日々の食事に事欠く家庭のあるのが今日の現実。社会保障制度を悪用した貧困ビジネスにはお峯の心は分からない。一葉の没後120年の年もあす一日限り。

 2016年  12月 29日 ― 出生数減少と非婚の流れ ―
 厚労省は毎年、その年の出生数や死亡数など人口動態を調査。歳末には推計数値を公表している
▼今年も22日にそれが提示されたがとりわけ出生数が統計史上初めて百万人を割り、98万1千人と推計されたことに先細りも予感され衝撃が広がる。日本でこの動態統計を始めたのは117年前の1899(明治32)年で、その年の出生数は138万7千人だから明治に比べ40万人超の減少になる
▼戦後のベビーブーム期には270万人前後も出生。時にはそんな特殊事情もあるから単純比較はできないが、少子高齢化が進む今は百万割れを重く受け止めなければなるまい。結婚を嫌う若い人が増えていることも気になる
▼日本生命など各社の独身者対象の意識調査でも「結婚したくない」と答えた人が男性では20代に女性では30代に多い。その理由では「一人でいるのが好きだから」が男女ともに一位だ。ほかに経済的不安という理由が男性に目立つ
▼かつてはそれら理由を本音と見ずに上手にほぐして、「結婚したい」と目を覚ますような相手を紹介する仲人が活躍したが、今は仲人抜き挙式が多い。この辺で再登場の流れができないか。先輩諸氏には新年からでも世話焼きを願いたい
▼古いという声もあるが、それが出生数減少の一因でもある非婚の流れを変えるかもしれない。

 2016年  12月 28日 ― お寺でクリスマス ―
 先日、盛岡市の専立寺でクリスマスコンサートがあった。本堂できよしこの夜とは素敵で愉快。下ノ橋教会の牧師さんを招き、楽しいトークも。不信心者なので宗教に明るくはないが、仏教もキリスト教も平安への祈りは同じであるまいか。
▼古くから寺は仏と祖先を祭る場であり、地域の集会所だった。盛岡市内で開かれている「生き往きセミナー」の催しには、今も善男善女が集う。フルートがうまい祇陀寺住職を囲み、多彩なゲストを呼び、旬のテーマで盛り上がる。
▼盛岡には北山と大慈寺を中心に、多くの寺が軒を連ねるのだから、盆と彼岸だけでなく、文化のよりどころとして年中、にぎわったらいい。寺町を離れると天昌寺、永祥院、宮澤寺、長善寺、大松院、清水寺、青山寺など立派な堂宇があり、いずこの由緒も市民の歴史の財産だ。
▼近頃の海外ニュースは、宗教対立にまつわる陰惨な事件ばかりでめいる。クリスマスを前にしたベルリンで、むごいことが起きた。わが国のお寺でジングルベルの隣人愛がありがたい。盛岡市内には仏教とキリスト教だけでなく、イスラム教も平和に共存しているのだから。
▼いずれ専立寺のコンサートは面白い。今度、見に行ってみよう。ここで一句「庫裏(くり)住ますお坊さんにもクリスマス」。下手な川柳で拝みます。

 2016年  12月 27日 ― 行く年顧みる創作熟語 ―
 3・11後も国内外で大地震が相次ぐ。今年も大分県にも及んだが「熊本地震」と命名された大地震が4月に発生した
▼14日の前震は震度7を記録し16日の本震も震度7のほか5弱以上が11回も連発。家屋の倒壊や土砂崩れも起き、崩落する山とともに大小の岩が滑落する光景もあった。テレビが伝えた惨状が今もよみがえる。犠牲者は157人に及ぶ
▼住む家を奪われた被災者の多くは避難所を経て仮設住宅に移り、被災後初めてのお正月も大半がここで迎える。悲哀を味わうこともあるであろう被災者の健康と健闘を祈るばかりである。そんな熊本の地から歳末に少々明るいニュースが伝えられている
▼同県御船町の水越地域で本震の日に山から滑落した巨岩が、地域集落が管理する作業道の道幅いっぱいに鎮座したままになっている。巨岩は周囲12bで重さ百d超。人の力ではびくともしない。畑などに通う集落の私道だが作業車も通れない
▼復興支援組織にも相談し知恵を絞った集落は、ネットの競売サイトに撤去費用落札者負担を条件に「巨岩、買いませんか」として出品。今月20日に2400円で落札されたのだ。破砕撤去でも百万円はかかるこの岩。落札者は善意の業者だ
▼ほかに寄付申し出も多数あったという。厳冬に向かうが伝え聞く側も胸がほっこりする。

 2016年  12月 26日 ― 安倍総理の真珠湾訪問へ ―
 入社して営業回りの頃はバブル景気と日米経済摩擦の時代。先方は元気が良くてシビアな社長さんや担当者が多かった。
▼「盛岡時間」で5分も遅れたら会わんと叱られれば肝に銘じたが、悩ましいのはアポの時間前に行くべきか。「5分前に来なければ営業の心得なし」と門前払いも、「営業マンなら定刻きっかり。早めに来るとせかされる」と諭されたこともあり、皆さんには貴重な教訓をいただいた。
▼自分のドジ話に例えるのも何だが、真珠湾攻撃では外務省の宣戦布告が空襲より遅れたことで、米国民は「リメンバー・パールハーバー」と日本人を面罵し続けた。しかし空襲の30分や1時間前に通告しても、「攻撃寸前の卑劣な宣戦」のそしりは免れなかったろう。
▼仮に半日ほど猶予があり、米軍が洋上で迎え撃ったら。当時の日米の艦隊の実力差から、なお日本が圧勝した可能性が高い。その場合、米国はだまし討ちでの敗北より深い屈辱に一層、復讐心を募らせたかもしれない。開戦から75年、もう言った言わない式の論争にはピリオドを打とう。
▼27日は安倍総理が真珠湾を訪れる。広島訪問と併せ、歴史問題の日米和解はオバマ政権有終の外交遺産。これが太平洋のバブルと消えるか、パールのように育めるかは、今後の両国の指導者と国民の見識にかかる。

 2016年  12月 25日 ― 行く年顧みる創作熟語 ―
 住友生命が毎年公募する「創作四字熟語」は、既存の言葉の一部をその年の世相を反映した四字に言い換える歳末の言葉遊びで、今年も先ごろ入選作品50編が発表された。ここではその幾つかを元の言葉と併せて紹介したい
▼投打二刀流で大活躍する大谷翔平選手関連もある。ずばり「投打無双」(元は当代無双)と表現した傑作もあり「日本覇夢」(日本ハム)と言い切る四字も面白い。大リーグのイチロー選手も登場。3千本安打の快挙を「燦然安打」と称賛される
▼政治ものでは消費増税延期を「消遅増税」とし、難題に立ち向かう小池百合子新都知事を「新都多難」(前途多難)と案じる。社会の流行ものでは「GO(ゴー)夢中」(五里霧中)と、子どもも大人もはまった「ポケモンGO」の異様な広がりを憂慮する熟語も作られている
▼今年は岩泉町にも襲来し死者も出した台風10号をはじめ、地震も各地で発生し鹿児島の桜島、熊本の阿蘇山など火山も噴火した。これらを「風震火山」(風林火山)と表現している。ブラジル・リオ開催の五輪も素材になっている
▼「銀勇四人」(吟遊詩人)「四士奮迅」(獅子奮迅)はどちらも、陸上男子400メートルリレーで4選手が果敢にバトンをつなぎ、銀メダルを獲得した光景だ。熟語から行く年のあれこれが浮かぶ。

 2016年  12月 24日 ― 三省堂の“新語”大賞 ―
 年の瀬が近くなると、今年の漢字や新語・流行語大賞などが発表される。日本にほぼほぼ定着した
▼その年の世相やヒットなどを反映した字や言葉から、一年を振り返る人も多いはず。今年の漢字は「金」、現代用語の基礎知識選の新語・流行語大賞は「神ってる」となった。「金」からはいろんな連想があるが、「神ってる」はプロ野球カープの緒方監督の一言に他ならぬ。カープがセ・リーグ優勝を逃していたら大賞から外れたかもしれない
▼流行や象徴は今年をよく表すが、辞書も刊行している三省堂が始めた「今年の新語」は、今後辞書に掲載されてもおかしくないという、なかなかユニークな切り口。今年の選考では、ばりばりの流行語だった神ってるは選外、「ほぼほぼ」が大賞という結果になった
▼ほぼほぼは、ほぼを繰り返すことで意味を強めるというが、10割を完全としてほぼは何割で、ほぼほぼは何割なのかと頭を悩ませる。どちらも完全に近いように感じ、ほぼを使えば意味は、ほぼ伝わるのではないか。それでも、なかなか侮れないのは、使用が今年に始まったことではない来歴。テレビ番組名に使われ、じわじわ広まったようだ
▼ここまで繰り返し語を多用した悪文を読まされ、やれやれと思われている方、ごめんなさい。繰り返しはほどほどにと自戒。

 2016年  12月 23日 ― 刑法違反のカジノ解禁 ―
 一度勝って大金を手にした味が忘れられず、ギャンブル依存症になる人が少なくない
▼野球賭博にはまり角界を追われ、家族からも離反された元関脇貴闘力関もその一人だ。発端は海外巡業時にカジノで勝ち5千5百万円を手にしたことだと自ら明かしている。以来、大相撲解雇後に始めた焼き肉店経営中も依存症は続き負けも重なる
▼だが3年前に目を覚ます。負けた総額が5億円となり店の税金を滞納。店員の給料も払えなかった時だ。これを機に克服への自助グループに通うなど、あらゆる努力をし依存症から脱皮。現在は全国に11店舗を持ち自身の体験を交えた講演活動にも取り組んでいる
▼日本の刑法は第185条で賭博をした者は50万円の罰金または科料に処すると明記。186条では賭博の常習者は3年以下の懲役に処するとし、賭博場を開帳し博徒を結合して利益を図った者は、3カ月以上5年以下の懲役に処すると規定している
▼刑法が賭博を厳しく禁じていることが分かる。年末に国会が拙速に成立させたのは《カジノ解禁法》ではなく解禁を目指す法案そのものの提示を、政府に促す準備法の形をとっている。やがて本法が顔を見せようが、カジノは賭博で刑法に違背することを忘れてはなるまい
▼国民もこの立法手順の巧妙さを見抜き、監視を続けたい。

 2016年  12月 22日 ― 紅白出場の福田こうへいさん ―
 福田こうへいさんが今年のNHK紅白に3度目の出場を果たす。歌は「東京五輪音頭」。
▼玉山在住の民謡歌手として売り出しの頃は盛岡市のサンビルの呉服店に勤務し、上階に経済記者クラブがあるので、よく立ち話をした。名人の岩月さんを父に民謡はプロとしても、ごく普通の青年で、「ヒップホップも聞いていました」と、屈託なかった。
▼森昌子さんの名曲、「おかあさん」が、啄木ソングとはよく知られる。「やせたみたいねお母さん。ふざけておぶって」のさわりを聞けば、「たはむれに母を背負いて」を連想する。母を慕う娘の歌。
▼それに対して福田さんのヒット「南部蝉しぐれ」は、息子が父をしのぶ歌。さびの「とがって生きろ」のフレーズは厳父の遺訓であろうし、故山の姫神のシルエットに重なる。「おかあさん」のように、はっきり本歌取りしてはいないが、曲全体が啄木の「ふるさとの山はありがたき」と響き合う。作曲は奥州市出身の四方章人。
▼福田さんは今年、不惑を迎え3度目の紅白となれば、これから大歌手入りの期待がかかる。国民的スターをエノケン(榎本健一)、カツシン(勝新太郎)、スギリョー(杉良太郎)など略して呼ぶならわしがある。東北を背負う歌手として、フッコー(福田こうへい)と呼ばれるようになればすごい。

 2016年  12月 21日 ― 文芸が光る岩手の高校生 ―
 先日、表彰式が行われた「第31回全国高等学校文芸コンクール」は毎年1回、小説など7部門で作品を競う催しだが、今回は3部門で岩手の高校生が最優秀賞を手中にしている
▼ほかに優秀賞などで16人が入賞し11人が入選。文芸の天地岩手の裾野を広げている。最優秀賞は文芸部誌部門では盛岡四高文芸部(土谷映里部長・部員13人)の「志高文芸50号」が2年ぶり12度目の受賞という快挙となった。併せて文科大臣賞も受けている
▼小説部門では盛岡三高3年の佐藤薫乃(ゆきの)さんの作品「うるわしの里」が、最優秀賞と文科大臣賞に輝く。自身が中学時代まで住んだ二戸市浄法寺町が誇る漆産業の将来を見据えて、後継問題に揺れる若い世代の葛藤を描いている
▼テンポのいい文章で課題の本質に迫る力作だ。塗師として熱心に漆器に向かう叔母。漆の樹液採取を楽しむように森へ行く祖父。そこから跡継ぎへの圧迫を感じる高校生のヒロイン。3人の心理も丁寧に書いている
▼短歌部門の最優秀賞は花巻北高3年の長畑七海(ななみ)さんが受賞した。長畑さんは地元ゆかりの詩人・高村光太郎の命日「連翹(ぎょう)忌」に墓参。受賞歌は詩「道程」にある「常に父の気魄を僕に充たせよ」に重ねて詠む。「一輪を墓石に飾る連翹忌 あなたの気魄私に充たせ」と。

 2016年  12月 20日 ― 山口青邨の冬至3句 ―
 「山妻は冬至の南瓜煮る仕度」は盛岡出身の鉱山学者で俳人、山口青邨の一句。あすは二十四節気の「冬至」。カボチャや小豆がゆを食べる風習があるが、カボチャも小豆も不得手。おのれの季節感の希薄さにずうずしくも郷土先人の俳句に登場願った
▼岩手県内はインフルエンザが昨年より1カ月ほど早く流行している。季節感の薄さが幸いしてか何十年と無縁だが、いつ感染するか分からず、かかれば1週間は仕事や生活に支障をきたす。できる予防は心掛けたい。だが、風邪は1シーズンに何度か症状が出る。早めに市販薬を飲んで十分な睡眠を取り体に負担を掛けないようにし、こじらせぬようにしている。そのおかげか何日も寝込むようなことはない
▼青邨には「飾りおく冬至の南瓜今は切る」というのもある。現代なら11月から、おばけカボチャが飾り物となりハロウィーンを盛り上げる。ただ、外皮がオレンジ色のおばけカボチャを食べた話を周りから聞いたことはない。漏れ聞く情報ではおいしくはないらしい。青邨は緑の外皮のカボチャを食べるまで飾りとして鑑賞したのか
▼12月になれば暖房なしには過ごせない。「冬至梅暖炉の側でふくらみぬ」。冬至の頃から咲くトウジバイ。花も冬の寒気を和らげてくれる。冬至の日に「団子より花」も悪くなさそうだ。

 2016年  12月 19日 ― 面白さ増す来年の大河ドラマ ―
 NHKの大河ドラマは粗筋を理解している歴史ものでも欠かさず見てしまう。巧みな脚本や出演者の演技などに引き込まれてしまうのだ
▼18日に完結した「真田丸」(堺雅人主演)も、周知の筋書きに見せ場を工夫しているから、毎回終わりごろには次はどうなるかとわくわくさせられた。来年1月8日に始まる大河も歴史もので、題名は「おんな城主井伊直虎」(柴咲コウ主演)と発表されている
▼直虎は古い時代でも男性の名前だが、この人は実は女性だったという伝承に基づいて脚本が書かれている。井伊家は直虎が活躍した時代より後に徳川家康に重く用いられ、徳川家に代々仕える譜代大名の中でも筆頭格で遇されている
▼直虎こと井伊家女性当主が遠江(とおとうみ=静岡西部)の井伊谷城城主を務めたのは、戦国時代から安土桃山時代にかけてである。主君今川家との抗争がある中でこの城主は、領域の守護と支配に敏腕を奮ったとの伝承もある
▼ところで今月14日、京都の井伊美術館が「直虎」は女性ではなく、今川家重臣の息子だとする新資料が発見されたと発表した。放映が間近だから視聴者も驚いたがNHKは、皆さまに楽しんでいただけるフィクションのドラマとして、原案のまま制作し放映するとコメントしている
▼むしろ面白味が増すかもしれない。

 2016年  12月 18日 ― 日本の国連加盟60周年 ―
 国際連盟脱退から23年目、第二次大戦後にくら替えした国際連合(国連)の日本加盟が承認されたのは1956年12月18日。国際社会への復帰が認められてから60年が過ぎた
▼外務省ホームページでは承認された国連総会での重光葵外相の演説文を読むことができる。重光は加盟への感謝に続き「日本国民が今日恒久の平和を念願し…」と日本国憲法の前文を読み上げた。さらにこの日本国民の信条は国連憲章の目的や原則として規定されるものと完全に合致しているとし「日本は、この厳粛なる制約を、加盟国の一員となった今日、再び確認する」と述べた
▼敗戦後の日本は戦争のもたらす不幸が身に染み、戦争当事国とならずにきた。戦争体験者が少なくなり、高度経済成長期以降に生まれた国民が増えるにつれ、平和は当たり前にあるものだという感覚になるのもやむを得ない。だが、ゆえに不戦への努力が求められる。毎年の戦没者追悼式で語られる尊い命の犠牲と戦後の血のにじむ人々の努力によって繁栄と平和がもたらされている思いを肝に銘じたい
▼重光は演説の最後に「日本はある意味において東西のかけ橋となり得る」と言及した1カ月後に急逝
▼当時の東西と意味は異なるが、保護主義伸張する折、新渡戸稲造を生んだ日本は国際協調を促す動力となれるか。

 2016年  12月 17日 ― 麻央さんの闘病ブログ ―
 歌舞伎俳優市川海老蔵さんの妻・麻央さんは、5歳の女児と3歳の坊やの母でもある
▼海老蔵さんは今年6月に妻が乳がんであることを公表した。彼女はかわいい盛りのわが子を家族に託し今も入院闘病中である。当初の日々は病状も伏せベッドの上で隠れるように過ごしていたが、主治医の言葉に心が大きく開く
▼彼女は発心し9月1日から実情を赤裸々につづるブログ「KOKORO(心)」をスタートさせている。その初日の文面にも「素晴らしい先生(主治医)と出会い心を動かされました。先生は『がんの陰に隠れないでね』と言われたのです」(要旨)と書いている
▼さらに「乳がん公表でこれまで以上に病気の陰に隠れようとして、心や生活をさらに小さく狭いものにしてしまいました」と振り返り、「力強く人生を歩んだ女性でありたい」と決意を新たにする。ブログを始めた理由も次のように明かしている
▼「子供たちにとって強い母でありたいから、ブログという手段で陰に隠れているそんな自分と、お別れしようと決めました」と。病床の彼女が心境を書き続けるブログは病む人々を勇気づけ、世界的に反響を広げている
▼英国BBC放送が主催する恒例の影響を与えた「今年の百人の女性」選出で、本年は晴れがましくも麻央さんの名前が発表されている。

 2016年  12月 16日 ― 話題の文庫X ―
 文庫と言えば苦い思い出がある。小学6年の時、ロッキード事件で田中角栄が逮捕され毎日、テレビで大騒ぎだった。
▼それで何の気なしに「みんな読んだらいい」と、家にあった子ども向けの角栄自伝「わたくしの少年時代」を持っていき、学級文庫の棚に入れた。担任は「なんてこった」と驚き、こっぴどく叱られた。代わりに少年少女向けの「罪と罰」を持っていったら褒められた。
▼バツ印と言ってもバッテンではなくエックスの方。盛岡市のさわや書店考案の「文庫X」が話題を呼び、全国の書店が店頭でならった。清水潔著「殺人犯はそこにいる」(新潮文庫)を、書店員の推薦文を買いた包装紙にくるみ、タイトルを伏せて販売したところ、ベストセラー並みの売れ行きに。
▼書店は全国チェーンの大型化が進む一方、中古本市場の拡大、ネット販売の侵食などにより、中小店舗の減少が続く。業界では街の本屋さんをあえて「リアル書店」と呼ぶそうだ。読書のトレンドをいち早くキャッチし、店頭で顧客に手渡すにはどうするか。盛岡の商店街の中核としても、今回の手法に、店の創意工夫が実った。
▼初売りの福袋のように、中身を開けるお楽しみをミックスしたことも、文庫Xの成功につながったのだろう。大人向けのXマスの贈り物にもぴったりでは。

 2016年  12月 15日 ― 町内高齢者見回りの妙味 ―
 地元町内会には独居高齢者と面談する「見守り隊」活動がある
▼当方も2人一組で7人を担当。休日を中心に訪問対話をしている。軽い認知症の人もいるが心身健全な立派な人もいていろいろ学ぶことも多い。先日訪問したのは今夏に細君が他界した90歳の長老Tさん宅
▼部屋へ案内され目を見張ったのは壁に額装された毛筆による言葉だ。そこには「二〇一四年四月にナイジェリアの中高一貫女子校から、武装集団に拉致され行方不明の二七六人の少女たちが、一人でも多く一日でも早く無事に家族の元へ帰れますように」と書かれていた
▼事件直後に夫妻で相談し今は亡き夫人が筆をとり「かわいそうに」と涙をあふれさせながらしたためたという。訪問者2人も心を洗われ事件報道の記憶を確認し合う。拉致したのはボコ・ハラムという武装テロ組織。少女たちは武装兵との結婚を強いられ拒否した子は性的虐待を受ける
▼彼女たちが自爆テロの特訓を強要され、体に爆薬を巻き実行したと見られる市民密集地テロも起きている。今月9日にもナイジェリアの市場で2人の少女が自爆。56人が死亡したテロもこの組織の関与が疑われている
▼「一人でも多く」と少女らを見守る90歳がまぶしい。町内活動の妙味に感謝しつつ見守る目を世界に向ける生き方もまねようと思う。

 2016年  12月 14日 ― 老後の理想と現実 ―
 尾根の連なる山地を鳥観したカメラが山を開いた耕作地を捉える。山口放送が25年取材したドキュメンタリーを映画化した「ふたりの桃源郷」は岩国市の山中から始まる。公共の電気、ガス、水道のない山中に1組の老夫婦が暮らす。現宮古市の開拓地を舞台とした映画「タイマグラばあちゃん」ようなテーマを想像して見にいった
▼戦後の開拓地タイマグラは撮影開始時、1組の夫婦だけになっていた。電気が引かれたのは88年と、われわれが当たり前に享受しているもののない暮らしは、マサヨばあちゃんの愛すべき人柄に心が温められると同時に戦後日本を自問させた
▼「桃源郷」は終戦で帰還した夫が妻と食うために山中を開墾し、子育てを考え一度は都会で暮らすが、夫が65歳の時に夫婦で戻る。夫婦が心のよりどころとする開墾地で、子の手を煩わせず生涯を終えたい強い意思が伝わる
▼この映画では山を下りて街や県外の娘の家まで映し出し、ほぼタイマグラだけでカメラが回ったのとは対照的。自給自足に近い夫婦が年金をATMで引き出す場面や老人ホームでの生活を追う
▼故人となった夫婦は本望だったろうが、見る側は国の制度や社会の仕組みの中で自分らしく生きる難しさを投げかけられる。自助、共助、扶助のバランスをそれぞれに探りたい。

 2016年  12月 13日 ― 電通に理念のゆがみ ―
 電通は日本一の広告代理店だ。同社には第4代社長が1951年に、自らを戒めるため掲げた「鬼十則」という10項目の訓戒がある
▼トップが自らを督励するのはいいが、電通ではそれを「社員の心得」にも転用。今月9日に削除を発表したが半世紀以上も「社員手帳」に明記し社の理念に影響を与えてきた。「十則」には「取組んだら放すな!殺されても放すな!目的を完遂するまでは」など命令調の過激な表現もある
▼新入社員も死ぬ覚悟を迫られた感覚に陥り、残業も労使協定の「月70時間」を超えても耐え続ける。だが限界も来る。昨年12月25日には当時24歳の高橋まつりさんが、過重労働に耐え切れず社員寮4階から飛び降り命を絶つ惨事が起きた
▼彼女は母の手一つで育ち勉学に励み東大を卒業した才媛で昨春入社。母を早く楽にさせたいとの夢もあったろうに、結末が悲しすぎる。彼女が「今から帰宅〜時間が足りないぞ」とネットに投稿したのは同月9日の午前4時。深夜残業の過酷さが分かる。だが申告は「月69・9時間」にさせられた
▼上司からは「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」と暴言も浴びる。不法残業に上司のいじめが彼女を追い詰めた。東京労働局は先月電通へ強制捜査に入ったが、一周忌の前に彼女と母親の無念を晴らしてほしい。

 2016年  12月 11日 ― ツーカーの信用の地域通貨 ―
 「ツーカーの仲」のいわれは、語源由来辞典によれば、何でも「つぅことだ」と言えば「そうかぁ」と答えるほど、気心知れていることらしい。江戸っ子のやりとりだろう。
▼先日、盛岡市に講演に来た納村哲二氏の「地域通貨で実現する地方創生」(幻冬舎)を読んだ。納村氏は、人口流出に劣らず富の流出も地方消滅論を招いていると論じる。活性化のため地方公共団体や業界団体に予算を投入しても、それが域内で循環しなければ意味がない。
▼そこでツーカーと気心知れた、ローカル経済の信用ベースの「地域通貨」の利用を提唱する。中でも盛岡市の「MORIO―Jカード」の紹介には、かなりのページを割いている。
▼前任の盛岡商工会議所副会頭の玉山哲氏らによる設立の努力を紹介し、「重要なのは商店街ポイントを超えた地域通貨だからできる新たなサービスや連携を増やし、通貨としての価値を高めていくこと」。運営にあたる盛岡バリューシティの取り組みを評価し、商店街が大型店や各種サービス業と手を組むことによる、新しいツールの成長性を見いだす。
▼ツーカーの語源に話を戻せば、盛岡弁なら「だじぇえ」「んだっかー」のやりとりか。さしずめ「ジェーカー」の仲となる。気心知れた信用のMORIO―Jカード。使ってみればいいえん。

 2016年  12月 10日 ― 横断歩道で停止しない車 ―
 励行している早朝の散歩コースには、押しボタン式信号機を設置した横断歩道がある
▼人通りの少ない時間帯のせいなのか、ボタンを押し歩行者用信号が黄色から青に変わりドライバー用信号が赤になっても、徐行はしても停止せずに走り抜ける車がかなりある。信号無視が数台続くこともあるのだからあきれてしまう
▼信号機があってもこうなのだから、信号機のない横断歩道はいかばかりであろう。JAF(日本自動車連盟)もそれを案じたのだろう。今年6月には各種交通マナーについて全国規模のアンケートを実施している(有効回答数6万4677件)
▼そこでは《信号機のない横断歩道で歩行者が渡ろうとしているのに、一時停止しない車が多いと思うか》との設問もあり、これには43・7%が「とてもそう思う」と答えている。この回答を重視したJAFは職員が歩行者となり、横断歩道歩行者優先原則の現状について、8月15日から2週間ほどかけて実態を調査した
▼47都道府県から2カ所ずつ選び、計94カ所の信号機のない横断歩道を通過した車両を調査。対象となった車は1万26台で一時停止したのはわずか757台だ。全体の7・6%と寒々しい現状が判明。浮上したこの課題をどう打開するか
▼取り締まりも大事だが運転者各自が目覚めるしかなかろう。
  

 2016年  12月 9日 ― 日本独自の温泉マーク ―
 国による文化や通例の違いは承知しているが、具体例を挙げて指摘されると予想外のことがある
▼経済産業省が国内規格の図記号を国際標準化機構(ISO)に統一する方針を示した中の一つ、温泉マークには思いも寄らなかった。日本は世界トップの温泉大国で、日本以上に浸透している国はないと思うが、まずISOの図記号に温泉マークがあることを初めて知った
▼外国人観光客には日本の風俗として温泉や銭湯を体験しようとする人も増えているようだ。しかし、日本人が当たり前に使ってきた温泉マークが外国人の勘違いを招くとは。確かにISOも丸い浴槽から3本の湯気が立つが、入浴する人が描かれ説明としては親切だ
▼この国の方針に対し、有名温泉地を抱える地域から存続を求める声が上がり、併用に落ち着きそうだ。日本には「郷に入っては郷に従う」ということわざがあり、日本人には海外で勘違いしても文化の違いで納得したり、行く前から心構えする人は多いかもしれない。一方でホスピタリティーの面も考慮しなければならず、訪日客に「従え」とばかり言ってはいられまい
▼訪ねた国の文化の違いを知る体験は失敗談でも旅の個人的な思い出になる。だが、外国人を受け入れる側は大きなトラブルや訴訟を避ける事前の対策も無視できないだろう。

 2016年  12月 8日 ― 休眠預金活用法 ―
 初めて自分名義の銀行通帳を作ったのは50余年も前になる。東京で寮生活を始めた頃で近くの銀行で口座を作り、通帳を手にした時の新鮮さを懐かしく思い起こす。東京を離れてからは岩手の銀行3行をはじめ信金でも通帳を作った
▼そこにゆうちょ銀行なども加えたから、わが家の通帳は10数冊になっている。日常的に出し入れするのは2行ほどだから、ほかの金融機関の通帳は多少の残高を放置したまま、20年以上も眠り続けている。だから今月2日の国会で「休眠預金活用法」が成立した時には少々身構えた
▼「活用法」は10年以上放置された1万円未満の預金及び、1万円以上で確認不能名義人の残高は国の「預金保険機構」に移し福祉関連事業に使うことを目指すという。その趣意を知りわが家の残高も移されるなと苦笑。でも預金者が気付き求めれば払い戻す配慮もするというから静観することにした
▼ところで現行の休眠預金対応は金融機関がしている。10年以上放置された残高1万円未満は金融機関の収入になる。残高1万円以上の場合は郵送で通知。それが預金者に届けば問題にしない。未着の場合は放置と判断し残高全額が金融機関の収入になる
▼「活用法」の狙いは明快だ。従来は金融機関を潤した休眠残高は国に移し活用しますよ、ということになろう。

 2016年  12月 7日 ― 日米開戦から75年 ―
 12月8日は1941年の太平洋戦争の開戦日。ハワイ奇襲にあたり、日本の空母艦隊は千島の択捉島単冠湾から出撃した。盛岡藩も警備し、古くから日本領だった島は大戦後、ソ連、ロシアが不法に占拠している。
▼空母の艦載機による真珠湾の米戦艦撃滅の勝報を、作戦を企てた山本五十六は旗艦「長門」で受け取った。山本の投機的な構想は、世界の大艦巨砲主義に引導を渡した。
▼奇妙な後日談がある。この海戦上の革命をドイツも認めざるを得なかった。日本が提供した図面をもとに初の空母を建造したが、彼らの技術にして完成は難しかった。造船は科学力より経験が物を言う。未完成の独空母は敗戦後、ソ連の手に落ちた。
▼遅れたソ連海軍の空母建造は、ドイツ以上の難行だった。日独の技術が交じった船体を調べ上げ、米国との冷戦末期に、やっと念願の空母を持った。ソ連崩壊後は維持に耐えられず、中古品として売り払われた。その1隻が、わが国に東シナ海の脅威となった中国初の空母「遼寧」である。
▼真珠湾を訪れる安倍総理。今月はロシアのプーチン大統領と択捉島など北方領土問題を話し合う。故郷山口県の長門市で。しかし策士プーチンを前に米中を絡めた投機的な外交は禁物。日本だけが、つゆ知らず、またもや国の浮沈に関わるかも。

 2016年  12月 6日 ― 中学生の受賞作文 ―
 全国的に中学生作文コンクールが盛んだ。東北電力主催で今年42回目になるコンクールも応募作審査が終了。滝沢の姥屋敷中学校2年・鈴木雄大君の作品が最優秀賞に輝く。作文内容は近く公表するという
▼毎年各方面の受賞作品も読んでいるが、3年前に宮崎県の県紙が主催した「口蹄(こうてい)疫作文コンクール」最優秀賞作品の鮮烈さも忘れられない。受賞当時中学3年生の三輪有希さんが「生きるとは何か」をテーマに書いた力作だ
▼彼女の家は酪農家で小6だった2010年には口蹄疫(ウイルス性家畜伝染病)が宮崎を襲い、彼女が祖父母らとともに家族のように飼育する牛たちにも危機が迫る。感染すると幼獣は致死率が高く成獣は生産性が落ちる。酪農家にとってはそのまん延は一大事だ
▼宮崎でも牛の殺処分が現実となる。有希さんの家も56頭もの家族同様の牛を全頭殺処分する日が来る。彼女は学校を休み牛たちの最期を見守る。その中の1頭は前日生まれたばかり。青い瞳のかわいい子牛で「希望」という名前も付けていた
▼最期に全頭に好きな草を存分に与え名前を呼び「ありがとう」とお礼も言う。注射を打たれて悲鳴を上げ倒れていく牛たち。「希望」を引き離され暴れる母牛の姿も、「生きるとは〜命をいただくこと」と重い言葉も書いている。

 2016年  12月 5日 ― カジノ解禁法案のギャンブル感 ―
 世界で2番目に小さいヨーロッパのモナコ公国は、ヒッチコック映画の出演やアカデミー主演女優賞で知られるグレース・ケリーが大公と結婚、王妃となったことで全世界に知られる存在になったのではないか
▼ケリーの華やかなイメージそのままに世界の大富豪が足を運び、海岸にはヨットが係留する。海外からの資金が流れ込む仕組みで財政が成り立っている。しかし、物価は高いらしく、金に糸目を付けず消費できるセレブの国ということだろう。そして富豪、金持ちを象徴するのがカジノか。気品ある服で着飾った紳士淑女が楽しむ場であり、生活感や一獲千金狙いなどとは無縁で、大金をゲーム感覚で賭けているに違いない
▼会期延長した国会にカジノ法案が提出され、きょう衆院を通過の見込み。与党内でも意見が分かれる中、今国会で成立させようというのに前のめり感を禁じ得ない。制度設計も雲をつかむような段階だが、反対論には国民のギャンブル依存を助長するとの声が聞かれる
▼仮にモナコのようなカジノなら50万円のゴルフクラブですらお呼びでないかもしれないが、敷居の低い賭博場になる可能性も排除できない
▼可決に自信ある提案だったのだろう。国民にとって吉と出るか凶と出るか、少なくとも現段階では導入そのものにギャンブル性が高い。

 2016年  12月 4日 ― いじめられる福島の子 ―
 タレントの美輪明宏さんには多くの名言がある
▼ある番組で「いじめをなくすにはどうすべきか」と問われ答えている。「『いじめ』という軽い感じの言葉をなくせばいいのです。暴行・虐待・殺人・犯罪など重い言葉を使えばいいのです」と
▼確かにいじめは重い言葉のどれかに当てはまる。学校でのいじめも後を絶たない。原発事故後に福島から遠方へ避難し、転校や入学をした少年たちへのいじめも横浜と新潟で相次ぎ発覚。どちらの男児も級友から放射能汚染者とされ名前に「菌」を付けて呼ばれる
▼各自教師に相談するがいずれも無視されてしまう。特に新潟の担任教師は悪質で無視した上、先月22日には自ら級友の前で彼を「○○菌」と呼ぶ。以来彼は登校せず担任の責任が問われている
▼一方横浜市に避難した少年は現在中学1年生で今も「菌」呼びが続く。ほかに小5の時には何度も加害児ら約10人の遊興同行を強要され「原発賠償金があろう」と家から持ち出しも迫られ遊興費全額を払わされた。弁護士によると総額150万円超という
▼彼は心境を手記にまとめ公表。波紋が広がる。種々の思いのほか「何回も死のうと思った。でも震災でいっぱい死んだから、つらいけど僕は生きると決めた」(一部を漢字に変更)の一文には、称賛と激励が寄せられている。

 2016年  12月 3日 ― テレビCMに伊藤ふたばさん ―
 最近テレビで流れ始めた大手家電テレビのCMを初めて目にしたとき画面に引き込まれた。ボルダリングの壁を両手足を駆使して登っていく女子選手の練習風景がドキュメンタリータッチで映し出される
▼途中から見たので初め確信はなかったが、岩手山も映り、出演しているのが弱冠14歳の中学2年生、伊藤ふたばさんと分かった。9月にイランで行われたIFSC クライミング・アジアユース選手権でもB女子ボルダリングで優勝するなど国際舞台で活躍する。年齢制限でいわて国体に出場できなかったが、国際大会で実績を積む成長ぶりは地元民として頼もしい
▼伊藤さんは2020東京五輪に向けた注目選手としてCMに起用された。連続出場や4年後に向けた新顔の台頭など、どんな日本人選手が東京に出場するか楽しみだ
▼ところが、競技会場など運営面の方は、国立競技場整備やエンブレムに始まって大きな課題が次々と明らかになった。復興五輪の具体化も被災地として気になるが、岩手にはなかなか話題がめぐってこない
▼軌道修正はゼロから始めるのとは違う難しさがあるのだろう。だが、困難を乗り越えた経験は必ず血となり肉となる。伊藤さんはホールドを選択しながら頂点に向けて登はんする。組織委などはより良い五輪へ選択を誤らないでほしい。  

 2016年  12月 2日 ― 原発事故地元住民の苦悩 ―
 福島第一原発事故から間もなく5年9カ月になる。それでも遠方に避難中の人たちが帰れないでいる
▼原発近くではほぼ全世帯避難中の自治体もある。春には桜並木が観光名所となった富岡町も、今年9月時点の避難者数は1万5053人。この町の3・11発災当日の登録人口は1万5960人だ。通常転出者などを考慮すれば全町民が避難中と言えるだろう
▼政府の現地対策本部も何とかしたいと焦ったのか。今年10月末に富岡町議会全員協議会で、現在の避難指示を来年1月に一部解除したいと表明した。ところが町は放射線量低減や、被災家屋解体などを来年4月を目途に進めていたから、時期尚早と反発
▼それを受け対策本部は発表から1カ月後に町に対し1月案を撤回、陳謝した。非常時下でドタバタ劇が続く。町内のJR夜ノ森駅には「町の花」でもあるツツジが季節には咲き誇る。これも町民の自慢だがこの花はまだ確かな除染法がない
▼町首脳は伐採を決断。反対する議員を根を残し再生させると説得した。避難者もこれら町情報を把握し望郷の念を募らせる。当方近所にも60代の避難者がいて千昌夫の「夕焼け雲」(横井弘作詞一代のぼる作曲)をよく歌う。「あれから春がまた秋が流れて今は遠い町 帰れない 帰りたいけど帰れない」と涙を光らせて歌う。

 2016年  12月 1日 ― トランプさんの素顔は ―
 先日、野田坂伸也さんの連載で、日本のマスコミは選挙までトランプ氏の悪口ばかり並べ立てていたくせにと指摘された。それは確かだ。
▼自分も夏にトランプ氏をくさすコラムを書いた。しかし「ドナルドさん」とファーストネームで親しみを込めていたし、「札付き」の例えは申し訳なかったが、日米関係を心配してのことなので、あまり怒らないでください。
▼日本のメディアは、すごい形相のトランプ氏ばかり載せる。雑誌は「日本を見捨てるトランプ」式の見出しに、仁王さまのごとくカッと目をむき、大口を開ける顔でいっぱい。しかし評伝を読む限り、それはポーズだろう。
▼日本で言えば政商としての小佐野賢治と江副浩正を足し、そこにたけしや田中康夫を掛け合わせたような人。小佐野さんも江副さんも仕事柄、生前は本県と関わりが深かった。知人に聞けば、いろいろあったにせよ素顔は温和、知的で、足跡を残した人だったと。トランプ氏もそうならいいが。
▼いずれ政界履歴なき大統領はアイゼンハワー以来とか。かのファーストネームはドワイドだったから、少し名前が似ていると思いつつ、紺屋町から愛染横丁の通りの角を曲がればお寺さん。山門で、ぎょろり目をむく不動明王さまに世界平和を祈願した。そういやトランプ氏は、不動産王だった。

2016年 11月の天窓へ