2006年 5月14日 (日) 

       

■  〈盛岡百景〉64 盛岡駅前広場

     
  啄木の遺筆の中から文字を拾い集めた「もりおか」の駅名標が見える駅前広場  
  啄木の遺筆の中から文字を拾い集めた「もりおか」の駅名標が見える駅前広場  
  現在見られる盛岡駅や駅前の景観は、1982年の東北新幹線開業を契機とした駅舎と駅前の整備が基本。駅舎の壁面に掲げられた駅名標の「もりおか」と「啄木」の文字は石川啄木の遺した筆跡から取った。

  まだ地方色が濃かっただろう駅前に1962年、啄木50回忌を記念して盛岡市と盛岡啄木会が歌碑を建立している。25トンもの重さは啄木歌碑の中でも最大級という。「ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな」の歌が刻まれた。東北新幹線工事のため、73年に市立図書館構内に移されたが、駅前広場の完成に合わせ82年に駅前に戻された。

  啄木顕彰を確認したら駅前広場を眺めてみよう。整備は盛岡市と旧国鉄との共同事業。地方都市に景観の個性が薄らぐ中、杜(もり)と水の都盛岡を表現しようと「水と緑」をテーマとした。

  杜を表現した木では啄木歌碑のそばに盛岡の珍木シダレカツラが植えられている。水の象徴は人工滝。高さ6メートル、幅10メートルの岩盤に彫られた線で水は多様な流線を描く。落下した先にはみかげ石のサケ6匹が流れにあらがって躍る。市内の中心部でサケのそ上が見られる盛岡を表現した「滝川と鮭(さけ)」は盛岡の美術家、柵山龍司さんによる。

  植え込みの縁は石積も用いられ、水飲み場の石には矢穴が装飾されて盛岡城跡を想起させる。色あせてきて目立たなくなったが、広場の舗装には県内や隣県の観光地を示したみかげ石の方位盤も埋め込まれ、ターミナル駅としての性格を主張。個々を取り上げてみれば、盛岡の細胞が散りばめられている。

  高速交通化と情報化の進展で多くのターミナル駅頭は没個性となり、全国に似たような景観を生み出した。高速交通時代への本格的な到来は、北国のターミナル駅の風情をのみ込み、今や盛岡駅にも駅頭からの景色にも、郷土の生んだ漂白の歌人、啄木が詠んだ望郷のイメージはない。

  そんな中、広場とともに整備された公共地下道の陶板画が盛岡の風土や歴史を語りかける。故人となった盛岡生まれの美術家村上善男さんが手がけた。天気図や文字が散りばめられた村上さんの前衛の作風の中に、鬼とも蝦夷(エミシ)とも受け止められる獣のような姿が描かれている。陶板画には故岡本太郎が岩手で感じ取り、目を見開いた縄文の血脈が流れているかのようだ。

(井上忠晴記者)

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