2009年 1月 20日 (火)

       

■  〈啄木の短歌、賢治の短歌〉117 望月善次 「白き鳥」と「白鳥」

 【啄木の短歌】

  白き鳥つと水出でて天空に飛べりその
  時君を忘れぬ

  〔「石破集」、『明星』第7号(明治四十一年七月)〕

  〔現代語訳〕白い鳥が、さっと水を出て天空へ飛びました。私はその時あなたのことを忘れたのです。
 
  【賢治の短歌】

  ましろなる羽も融け行き
  白鳥は
  むれをはなれて
  海にくだりぬ。

     〔「歌稿〔B〕」604〕

  〔現代語訳〕真っ白な羽も融けて行き、その白鳥は群を離れて海に降りたのです。
 
  〔評釈〕「白鳥」「白き鳥」を含む作品を取り上げる。改めて言うまでもなく、「白き鳥」は、鳥一般に対する色を規定した表現であり、「白鳥」は「カモ科ハクチョウ属の鳥の総称」となる。全八種で、日本に飛来するものはオオハクチョウ、コハクチョウの二種だと言う〔『マイペディア』〕。啄木歌の「つと」には、「じっと、そのまま」の意味もあるが、ここでは「急な動作」を示す。一首全体としては、「白き鳥」の飛び立ちの瞬間に、相手の女性を忘れたという内容であるが、そうした瞬間性と相手女性への「へなぶり」が一首の核心。賢治作品は、「大正七年五月より」中の「アンデルセン白鳥の歌」九首中の五首め。アンデルセンの『絵のない絵本』の「第二十八夜」を作品化したもので、抽出歌は、一羽の白鳥が体が弱ったことから群れを離れる部分に対応している。作品としては取り立てるほどのものではないが、他作品に対応して纏(まと)める力量は一定のレベルを示す。

  (盛岡大学長)

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