2009年 1月 27日 (火)

       

■  〈啄木の短歌、賢治の短歌〉120 望月善次 呼吸作用からの展開

 【啄木の短歌】

  呼吸すれば、
  胸の中にて鳴る音あり。
   凩よりもさびしきその音!

  〔現代語訳〕呼吸してみると、胸の中で鳴る音あります。ああ、(結核のためだと思われる)その音はたこよりも寂しい音なのです。
 
  【賢治の短歌】

  息吸へば
  白きここちし
  くもりぞら
  よぼよぼ這へるなまこ雲あり。

     〔「歌稿〔B〕」672〕

  〔現代語訳〕息を吸ったので、私も白い心地がするのです。(目を空に転ずると)よぼよぼと這っているナマコ雲があります。
 
  〔評釈〕啄木歌は、良く知られた『悲しき玩具』冒頭の一首。『悲しき玩具』の出版を託された土岐哀果が、発見した紙片から冒頭に据えた作品。歌集名『悲しき玩具』も、哀果によるものであったが、抽出歌の著名度も、歌集冒頭に置かれたことと無縁ではない。運命が作者啄木や、哀果を越えたところで作用したというのが評者近年の実感である。「胸の中にて鳴る音」は、当然肺結核の「ラッセル音」を指すと思われる。おそらくは啄木自身も自身の結核は、肺結核であったと信じていたようであるが、近年の柳沢有一郎・近藤典彦の研究は、少なくとも啄木の死因は、「肺結核」ではなかったことを明らかにしているから、この点でも運命は当時の啄木の思いを越えている。賢治作品では、「白きここちし」の後の、(空への)「視線の転換」が賢治短歌らしい特徴である。「よぼよぼ這へるなまこ雲」と、雲を擬人化し、しかも「よぼよぼ」と断じたところもまた賢治らしい。

(盛岡大学長)

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