2009年 5月 23日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉106 長者森(ちょうじゃもり 1011メートル

     
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  「長者森に行きませんか。長者屋敷の跡もあります」と誘ってくれたのは、大槌町に住む藤原勝志さんだ。あの辺りはヤブでは?といぶかったが、ありがたいことにここ数年、登山道を拓いたとのことだった。

  長者森は川井村と大槌町の境、北上山地のほぼ中央に位置する深山である。東西に長い大槌町は、山側の地名が金沢で、海岸線は大槌と小槌だ。長者森、高滝森、妙沢山、白見山など1000メートル級の山並みを源頭とする大槌川と小槌川の2本の本流が、大槌湾にそそぐ。

  金沢では昭和30年ころまで金を掘り、金沢川から砂金を採っていたというから、お屋敷をもつ御大尽が1人や2人誕生するのは、至極当然の成り行きであろう。長者森は、金と砂金と海の幸に恵まれた土地柄を伝える語り部であったか。「打出の小槌で(小判が)ザックザク」−そんなイメージが大槌の町に重なる。

  藤原さんはロマンをこうも語った。「長者森は義経北行伝説の山なのです。長者屋敷に義経が寄ったのかもしれません」。平たい台地が確かに見られるが、ウソか真か、はっきりしないところが伝説の味付けというもの、尾ひれは世の常、人のならいだ。義経主従が平泉から遠野をへて大槌にたどり着き、長者森でしばし逗(とう)留するという筋立ては、歌舞伎の演目にありそうで刺激的であった。

  長者森は、県道26号線の土坂峠から登る。峠の待避所で「こだまの駅・遊々の森」の看板から南へ進入。しばし、ミズナラやヤマグリのなだらかな樹林帯を歩く。右手に90度折れた後、ダラダラァ〜とアップダウンをくりかえし、右や左にくねりながらダケカンバの山頂へ、1時間30分でたどり着く。

  藤原さんは森林管理署に勤める樹の専門家でもある。木の個性や特質をていねいに説明するが、こちらは三歩あるいてケセラセラだから実に情けない。でも、「力枝の上」とか「下」と伐採箇所を示す力枝(チカラエダ)だけはガッチリ覚えられた。見るからに大きく発育した枝は、素人にも見分けがつく。

  「7月は、ヒメボタルの光る海が出現します。第2土曜日の夜7時からホタルの観察会をするので、土坂峠に来てください。どなたも参加できますよ」と、夏の夜の幻想へ案内をうけた。

  県道26号線の土坂峠は、旧来の峠より南に500メートルばかりそれて開通。川井村小国の穀物と、大槌町の海産物を運んだ歴史の道が「三峰山」の石碑によって、ひっそり守り継がれている。

  峠からは右に早池峰山、左に薬師岳が見える。壮大なロマン絵巻であった。

(版画家、盛岡市在住)

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