2009年 6月 13日 (土)

       

■ 〈賢治の置土産〜七つ森から溶岩流まで〉112 岡澤敏雄 小岩井農場の土壌標本

 ■小岩井農場の土壌標本

  明治43年にロンドンで開催された日英博覧会に小岩井農場が「(火山灰の)地質の標本を出したとか」と言及した「遠足統率」先駆稿の挿話は、盛岡高農時代に恩師関豊太郎教授から聞いた話をすり替えた記憶だったかも知れません。この博覧会に盛岡高等農林学校は農業に関する標本をたずさえ参加しているのです。出品したリストをみると害虫標本(稲、果樹、桑、そ菜類)111点、植物病害標本6点、果樹剥製標本30点、土壌標本29種、材鑑30点および農産物13種などがあり名誉大賞を受賞しました。土壌標本29種の目録は次の通りです。

  一、硅岩風化標本=3種
  一、花崗岩風化標本=3種
  一、本校農場畑地土壌=2種
  一、本校農場果樹園土壌=3種
  一、愛宕山松林土壌=6種
  一、附属経済農場土壌=3種
  一、附属演習林土壌=4種
  一、小岩井農場(土壌)=5種

  なお小岩井農場の5種は農場の地質サンプリングで表層から深層まで垂直に掘り採って標本にしたものでした。

  1、腐植質壌土(火山灰)=表土
  2、壌土(火山灰及火山砂)=第二層
  3、火山砂=第三層
  4、火山礫=第四層
  5、白色粘土=第五層(洪積統)

  なお「土壌標本説明書」は「小岩井農場(岩手火山南麓)の土壌の如きは火山噴出物より成り其成層の順序を追跡するときは地質学上大なる興味を感得するのみならず東北地方には此種の土壌よ成れる原野広く分布するを以て其理化学的性質の研究は開拓上に貴重なる参考材料を供給する…」と標本的価値について説明しています。

  当時は欧米の農業機関は火山灰土対策を研究テーマにとりあげていた時代だったから、盛岡高等農林が展示した土壌標本は博覧会関係者の注目を呼んだことでしょう。

  日本土壌肥料学会は関教授をわが国の火山灰土研究の先駆的者と位置付け、大正2年に火山灰土のコロイド成分に注目して追跡した結果、アロフェン(非晶物質)と似た組成と推定したことを土壌学上の画期的発見と称賛している。関教授の実績は盛岡高農在任中に盛岡周辺の土壌から火山灰土の材料を得て研究したものだった。

  たまたま、日英博覧会への出品に小岩井農場の火山灰土を採取したことを賢治に語ったものらしい。その際に、土壌標本は円筒状のふた付ガラス瓶に入れて出品したが模範的サンプルである必要から、大量の土壌を掘り取って標本作りをした経緯なども説明した。それが「火山灰だのロームだの/もう何屯もほりとって」の詩章につながったのでしょう。

  賢治が関教授の研究室で手に取って見たはずの日英博覧会出品の土壌標本は、現在は岩手大学農学部に保存されていないという。

  しかし明治43年3月および5月発行の「盛岡高等農林学校校友会報第七、八号」に日英博覧会出品物解説書が掲載されているので辛うじて手掛かりが得られ、「遠足統率」の先駆稿に挿入された日英博覧会のナゾがどうにか解けたわけです。


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