2009年 12月 26日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉120 畚岳(もっこだけ、1577メートル)

     
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  友達に勧められて「伊山誠幸遺作展」に出かけた。いきなり黒いコンテで描いた1枚のスケッチが私の目にとまった|八幡平の畚岳である。

  作者とお会いしたことはない。絵を見たのも初めてである。トロイデ火山のモッコリ膨れた形状が、力強いタッチでとらえられている。ひたひたとサザ波のように押し寄せたもの、それは山を愛した伊山さんの熱き高揚であった。

  アスピーテラインをかけあがる楽しみにモッコとの対面がある。土を運ぶモッコに似ているところから名づけられたというが、見返峠へ近づくにつれミドリの生き物みたいにモッコリ、モッコリ、巨大化する。そもそも畚岳は火山だ。中味がことのほか熱いのである。

  白っぽいグリーンのササ原と暗緑色のオオシラビソ。県境の縦走路がモスグリーンの陰影を真一文字に描く。不毛の地熱帯と白い蒸気は太古の息吹そのままだ。やがて眼下に、秘湯で有名な藤七温泉もみえてこよう。

  畚岳は、八幡平から裏岩手縦走路に転じる指針のピークである。どこからでもよく目立つ。繊細でありながらパワフル、しかもシンプルなカタチなので発見しやすい。少なくとも伊山さんは、名主のように泰然と座す「畚岳」に魅せられ、時には励まされたお一人だったと思う。
 
  標高1577bのモッコは、全方位の視界深度を誇る八幡平の最大展望地である。頂きを県境から250bずらして秋田に置くため、正確に記すなら岩手の山ではない。三等三角点を設置した火の見櫓のような山頂だ。北西面がド〜ンと切れ落ちた断崖絶壁ということもあり、裏岩手縦走路の分岐から1本の登路をピストンすることになる。

  裏岩手縦走路へは、見返峠から藤七温泉方面に車道を7〜8分下り、案内板より入って30分進む。分岐を右折したのち10分で登ってしまう。そこで、八幡平や裏岩手縦走の途中で組みこめばよい。

  私は、アスピーテラインの開通を待って登る春一番がお気に入りだ。ジャンプに興じるボーダーを横目に、ツボ足でナイフリッジの残雪を一気につめる。地球から飛びだす高度感が抜群!晴れれば爽快感や小さな達成感も味わえよう。

  「日本海が見えたよ」とは、田中さんだった。「だって、赤白ツートンカラーの能代火力発電所の煙突が見えたもの。背後はもう海でしょ!」と、いぶかる私にダメ押しを出す。「鳥海山も見えるのだから、能代湾は距離的にもっと近い…か」。この目で確かめたことはないけれど、うなずかざるを得なかった。

(版画家、盛岡市在住)

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