2009年 12月 31日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉103 望月善次 あゝくちびる、こはよきひとの

 あゝくちびる、こはよき人の息すれ
  ば、やわらかき手の君のはにかみ、
 
  〔現代語訳〕あゝ(何とも言えない)あなたの唇よ。ああ、あなたの唇は、あなたという素晴らしい人の息をしました。(その素晴らしいまでの不可思議さに)あなた自身の柔らかい手もはにかんでいるのですか。

  〔評釈〕「紅隈の大荒事、」五首〔『アザリア』四号(大正六年十二月十六日)〕の最終歌。歌舞伎の内容に対応する作品としても、そうしたものとは独立した作品としても読めよう。そのいずれにしても、「強引な作品化」の傾向は続いている。つまり、平たく言ってしまえば、一首の意味の特定が困難なのである。抽出歌を、三つに分けるとすると「あゝくちびる」、「こはよき人の息すれば」、「やわらかき手の君のはにかみ」の三つになろうが、この三つの関連を定め難いのである。先ず、「あゝくちびる」と「こはよき人の息すれば」との関係である。少し無理もあるが、「あゝくちびる」と唇を讃美しておいて、「この唇は、よき人(つまり、あなたの)息をしたので」という解釈は成り立たなくもない。が、そうだとすると、結句にかけての「やわらかき手の君のはにかみ」が、なかなか繋がらない。〔現代語訳〕では、こちらも〈強引〉に「その素晴らしいまでの不可思議さに」の力業に出た。
(盛岡大学学長)

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