2010年 1月 14日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉108 望月善次 欄に奇る遊女が

 欄に奇る遊女が髪に降る雪はいたく
  な降りそ、物あはれなれ
 
  〔現代語訳〕欄干欄にもたれかかる遊女の髪に降る雪は、烈(はげ)しくは降らないでください。(ああ、この様子は本当に)何とも言えない風情ですねぇ。

  〔評釈〕「明烏春泡雪」十三首〔『アザリア』四号(大正六年十二月十六日)〕の五首目。「奇」は、「人+奇」で、音は「倚」にあり、その音が「依」に通じ、人が身を預ける意となる。「遊女」は、この一首だけでは、誰を指すかの特定は不可能だが、「明烏春泡雪」の中に置かれていることからすると、吉原の遊女浦里であると考えるのが妥当なところか。「な降りそ」の「な〜そ」は、第107回でも触れたように、白秋の「春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕べ」の影響だろうか。「物あはれなれ」には、二つの問題点がある。一つは結句としてこうした表現は十分であるかの問題である。話者の思いが勝り過ぎていて強引だというのが論者の解釈。もう一つは、結句の「(物あはれ)なれ」の終わり方である。係助詞「こそ」を伴わないのに已然形の終わりとなっている点は、斎藤茂吉の「めん鶏ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人は過ぎ行きにけり」〔『赤光』〕などの影響か。
  (盛岡大学学長)


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