2010年 2月 4日 (木)

       

■ 〈古都の鐘〉39 チャペック・鈴木理恵 ヨーゼフシュタットの演奏会

     
   
     
  ここ最近、何度か呼ばれている面白い演奏会がある。ウィーン室内楽友の会とでも訳したらよいであろうか、会員制で成り立つこの団体は、アマチュアの音楽愛好家たちからなり、月1回日ごろの成果を披露すべくコンサートを開いている。

  さすがウィーンは音楽の都とここでも言うべきか、音楽家になるか医者になるか迷った…などという話をよく聞くところだから、その腕前はアマチュアといえども侮れない。メンデルスゾーンの弦楽四重奏があり、ベートーベンのコントラバスソナタがあり、チェンバロと歌のデュエットがありと、腕もさることながらプログラムも多彩である。

  プログラムの最後はいつもプロの音楽家を招いて閉めるという構成になっていて、わたしも知人の紹介で招ばれるようになった。

  会場はウィーン8区、市役所の裏手、ヨーゼフシュタットの美術館ホール。シューベルトのころに建てられた建物をそのままに生かした、こじんまりとしながらもすてきなホールである。このかいわいは劇場横町で昔から粋なところ。いにしえのやんごとなき方たちもお忍びで遊びに来たとか来ないとか、そんなうわさがあったところで、そういう艶(つや)っぽい雰囲気は今も名残をどことなくとどめている。

  演奏会をきりもりする会長のヴァネチェックさんはウィーン大学で心理学を教えていた。ピアノの技量もなかなかでソロも伴奏もよくこなす。今は定年退職し、時々この演奏会にも出演しながら、このコンサートや年1回の遠足の企画運営に当たっている。

  企画運営などというと堅苦しいかもしれない。そのやり方は大民主的なもので、いつぞやも演奏会の休憩時間に、今度の旅はハイドンの生家を訪ねがてらブルゲンランドのワインを試飲するのがいいか、それともブラームスの住居を訪ねがてらシュタイヤーマルクのグルメの旅がいいか、はい、みなさん挙手してください、という感じである。

  この人が各演奏者を紹介しつつ曲の解説もなさるのだが、それが実に素晴らしい。音楽になんの造詣のない者にも分かりやすく、また嫌みなく深いことを話される。たまに混じえる冗談もチャーミングで、場が和やかになる。100人ほど収容できる会場が毎回ほぼいっぱいになるのも、長年の教授活動による話術の巧みさに加えて、彼の人柄のなせる技かと思う。

  わたしはアマチュアの方々にはいつもある種の尊敬の念を覚える。わたしの生徒にもいるし友人にもいるのだが、時間のやりくりといい、捧げられる労力といい、仕事を持ちながら音楽を自ら奏でることの大変なことを、傍で見て知っているからである。

  この演奏会に集まる方を見ていると、聴く者も弾く者もみな音楽が好きで、楽しみたくて集まって来る。まるで映画を見るような感じで、妙な気負いや批評精神がない。実際に演奏すること、仲間と呼吸を合わせること、また人前で弾くことの難しさを誰もが知っているからか、少々の失敗にも温かい。ここまでやり遂げたことへの賞賛がまず第一なのである。

  音楽が好きなんだというストレートな姿勢に、こちらも襟(えり)を正される気持ちになる。それは時にプロもアマも問わず、音楽をする基本にあるべきものだと思うが、悲しいかな、わたしもプロの端くれ、仕事としてやりすぎると時に見失ってしまいがちな感情でもあるからである。招かれて伺っているのに、実はわたしの方も逆にいろいろ気づかされることがあって、そういう意味でもありがたい交流の場になっている。
  (ウィーン在住、ピアニスト)

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