2010年 3月 6日 (土)

       

■ 〈風のささやき〉17 重石晃子 小さな命

     
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  お向かいの小さな坊やが、長靴を履いて走ってくる。ついこの間生まれたばかりなのに、子どもの成長は早い。2歳と6カ月、キラキラと輝く大きな目に見つめられると、かわいさに誰もが笑顔になる。

  彼が生まれたとき、お父様がうれしそうにごあいさつにいらした。「新しく町内会の一員になりました」と言って、生まれたての彼の写真を見せてくださった。

  タオルに包まれた生まれたての赤ちゃんだけれど、すでに目を大きく見開き、口を一文字に結んでいる。それに顔の半分は広い額で、生まれたばかりなのに「オレは何でも知っているぞ」といった目で、じっとこちらを見つめている。将来は哲学者になるかもしれない。

  まだ何も見えていないのに、見るからに男子の凛々しさがあった。真剣な好奇心に満ちた瞳でもある。あまりのかわいさに思わず笑ってしまったが、その写真は額に入れて本棚の上に今も飾ってある。

  この坊やが長靴を履いて雪の上を走っている。くるくる回る。力いっぱい両手を挙げてぴょんぴょんはねる。それを何度でも繰り返す。子どものエネルギーは無尽だとつくづく思う。大人がこれだけ動けるものだろうか。おそらく翌日はバッタングーであろうと、彼の若いご両親と顔を見合わせて笑った。

  子どもの姿は、そのまま生命の姿であろう。当たり前のことだが生まれたときから、彼の人生は始まっている。周囲の人に希望を与え、夢を持たせながら、すくすく伸びてゆく。まるで新緑のように、何とさわやかなことかと思う。

  終点の方がはるかに近くなったわたしの人生と、つい重ね合わせてみる。失敗を失敗とも思わず、エネルギーの噴出する方向へ一直線に走ってきた自分、若さゆえに乗り越えてきたこともたくさんあった。

  お向かいの坊やは、どんな人生を生きるのだろうか。ご両親は、どうしても実現できなかったことを子どもの上に夢見るのかもしれない。人生はその子のものだけれど、がれきの山ではなく、幸多いところに人生の根を張ってほしいものだと、坊やの澄んだ瞳に願わずにいられない。

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