盛岡タイムス Web News 2011年 3月 9日 (水)

       

■ 〈過ぎ去りし日〜北上山地の写真帳〉45 炭焼き小屋 横澤隆雄

     
  自慢の牛(平成10年ごろ、川井村=現宮古市=小国にて)  
 
自慢の牛(平成10年ごろ、川井村=現宮古市=小国にて)
 
  昔はどこの家でも牛を飼っていて、どこの家にも自慢の牛がいました。牛の好きな人は自分の家の牛はもとより、他所の牛まで顔で見分けることができます。私は牛があまり好きなほうではなかったので、自分の家の牛さえ見分けることができませんでした。

  中学生の頃、学校から自分の家に向かって自転車を走らせていると、向こうから牛の一団がやって来ました。親牛が4頭に子牛が4頭続いています。どこの牛だろうと見ていると、私の後から自転車でやってきた友人が、「今行ったのはお前の家の牛だぞ〜」と言います。半信半疑で、すれ違った牛を自転車で追いかけ、家の方向に追い返そうと2人で大騒ぎしているところへ私の父親が牛を追いかけて走って来ました。

  春の山上げを待ちわびた牛たちの起こした脱走事件でしたが、後で考えてみると牛の方は私のことを十分認識していたのでしょう。すれ違った時に私の方をチラリと見て、気まずそうな顔で歩みを速めたのはそのために違いありません。

  わが家の自慢の牛は、私よりずっと賢かったように思います。
(紫波町)

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