盛岡タイムス Web News 2011年 3月 11日 (金)

       

■ 〈学友たちの手紙〜胡堂の青春育んだ書簡群〉16 八重嶋勲 そろそろ灯火なつかりしくなり候へば

 ■原達(抱琴)

     
  原達(抱琴)  
 
原達(抱琴)
 
  31巻紙 明治32年9月17日付
宛 陸中盛岡市四ッ家町猪川様方 野村長一様 硯北
発 在東都 抱琴迂人(原達) 九月十七日夜

  別紙露子兄へ御届被下度候、
草々のかゝつらひに、君への音つれも欠きまゐらせ候、暫し涼しうなりしと思ひけるもまた残んの暑さ去り不申候へども流石に朝夕の心地よくて飯うまくなり申候、きミも休暇は終り給ひしなる可きか、そろそろ燈火なつかしくなり候へば、学業の余暇俳書など繙き給はんもよろしかる可く候、
先の御便には御地文壇の状況御知らせ被下ありかたく存候、かの日本派俳句か伊豫より起りし如くまた勃然として盛岡の天地にも起ることあらば、そは兄等の功少からさる可きを信し申候、専念御句作の程願上候、
御句左に盲評仕候、
洪水の引きし河原に秋暑し
  に は や のほうしかる可くや、
石の上に遲き月まつ夜寒かな ○
  石、岩の方しかる可し、
鳴子鳴らず閑なる村や午下り ×
   こは妄になほしたるにて候、首肯し給ふや、否や、
打物に篝火うつる霜夜かな ×
   こは君の句、打物に篝小暗き夜寒かな の「小暗き」及「夜寒」が力弱くて打物に調和せさる様な気がしてなほしたるにて候、如何、但し このやうな句紫人にあったかも知れません、
秋の水底なき桶の浮みけり
追剥の山刀磨ぐや星月夜 ×
   但し、子規に裏戸出でゝ鎌とぐ人や星月夜(?)あり、
山寺の榎の上や星月夜 ×
   星月夜、天の川とも動く可し、
小狐の罠に落ちたる夜長かな ×
   但し短夜にて類句ありき、
-篝更けて月なき陣の夜長かな
   集中白眉、只全体どことなくたるみ たる様の気がする丈ハ欠点なる可きか、
恙なき二百十日の出船かな
日蝕に小村閑なる残暑かな
  尚二三盲評仕候、
迎火のくわっともえ立つ細雨かな ×
   くわっと燃え立たずに、却って少しばかり 燃えてゐる方面白かる可し、
袷着てまくわ賣り行く女かな
   袷、まくわ、共に夏なれど前者は初夏後者は終夏なれば、袷着てがあまり、わざとらしくなる様に候、
鉢割って庭にみゝずを聞く夜かな
   初五、下七五と何の関係ありや、或は鉢の中にありし蚯蚓の庭に鳴くのにや、さりと は可笑しき事にあらずや、
今少し申したき事あれど少し忙しければこれ許にいたし候、尚名句たんと御送被下度候、
近吟二、三
  ことことと藁打つ音や夜長の灯
  長き夜の古行燈や枕元
  雨滴(ダレ)の間遠になりし長夜かな
  長き夜の夢恐ろしき寝覚哉
  いらたちてきたなくまけし角力かな
  村角力寺の太鼓を借りにけり
  相樸(撲)取一人の母をもちてける
  旅角力と乗り合わせたる夜汽車哉
  菓子折に植ゑたる草や咲きにけり
  夥しく薬草咲くや南蠻寺
  恋塚や白き花咲く細き草
  墓の草夕日に花の眞赤なる
  さよなら
    九月十七日夜    抱琴
     菫村詞兄
        硯北
 
  【解説】「御地文壇の状況御知らせ被下ありかたく存候、かの日本派俳句か伊豫より起りし如くまた勃然として盛岡の天地にも起ることあらば、そは兄等の功少からさる可きを信し申候、専念御句作の程願上候」

  正岡子規が愛媛県松山市から「日本派」俳句を興こしたように、盛岡の天地から勃然(ぼつぜん)として起こることがあるとすれば、君達の功が大きいだろう、専念して俳句を作るように、と激励しているところが面白い。また、露子、菫舟の俳句、十四句を添削、批評しているが、なかなかに鋭い。そして自作十二句を掲げており、繊細でなかなかの作品である。

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