盛岡タイムス Web News 2011年 3月 17日 (木)

       

■ 〈肴町の天才俳人〜春又春の日記〉26 古水一雄 夜学会モ今晩丈ケデ閉会

     
   
     
  表題には「三十九年の秋」と書かれ、「三十九日記第八 自八月丗日至九月十六日 通巻第二十一冊」と添え書きされている。
  8月31日は、とうとう杜陵夜学会最後の授業の日となった。
 
三十一日(前略)晩餐、ごま餅一ツ、餅
    先ズ喰フテ飯クフ、こじき汁、飯
    二ワン、みそかノ仕拂イナド一日
    中忙ヲキワム、芳太郎取立テヤゝ
    出来ル、市太郎マルキリ出来ヌ盆
    過ギ迄待ツテ呉レガ多シ、
    夜学会ニ出ル、路ニテ武蔵兄ノ家
    ヲ出ルニ會フ、何処ヘ行クガトキ
    イタラ夜学会ニ行カムトテ家ヲ出
    シナリト、路々語ル、漱石ノ「道
    草」貸ス、
    夜学会仮名遣一時間、うトふトノ
    遣ヒ分ケぬト紛ルゝクダリ実ハ先
    生モ紛ルゝ点ニ於テハ安心ガ出来
    ヌ方ナリ、国語一時間、種〃ノ生
    業、岐蘇ノ岩茸取ノ話ヤ伊勢ノ濱
    ノ海人ノ鮑取リノ話ナド、二課、
    松島ノ記、三課、天の橋立ノ記、
    貝原益軒文章デ講義シテモ興ガノ
    ラヌ、コンナ歌ガ出テ居ル、烏丸
    光廣卿ノナリトテ「君問はば見ず
    バ知らずとこたひてよ、ことのは
    しらぬ天の橋立」宮津カラ何処マ
    デガ何里ノ名勝ガ何処々々ダノ絶
    佳(景)ダノ、魏々(かいかい)
    ダノトイフ文字ウタ〃夜ノ長キヲ
    覚エタ、九時ノ鐘ヲキゝテ放課、
    生徒三名放課ノ時名ヲキイタ、曰
    (いわく)高橋初太郎、曰柳田徳
    助、曰小山田理吉、夜学会モ今晩
    丈ケデ閉会、明日鵜川君モ来テ閉
    会ノ辞ヲ述ベルト武蔵君ノ話ダ、
    杜陵夜学会梨下(李下?)塾モ今
    夜限リダ、コノ灯モ以後トモラズ
    ナルデアロウ、ト思フタガふっト
    消シテカヘツタ、
    以後黒板ニ向フ事ハアルヤアラズ
    ヤ、「山魏々と聳ゆ」トイフ説明
    デ黒板一杯ニ雲ヲエガキ富士山ヲ
    中カラ峩々(ガガ)ト画キ出シタ、
    松島ノ松潮風ニ吹キタゝラレテ屈
    曲云ゝノトコに松ナド画イテ見セ
    タ、マジイ(まずい)繪ダツタガ
    枝振リハ案外ヨク出来タツタ、
    カエリ来テ白墨ノ手モ洗ハジニ帳
    場ノ人ト成ル、
 
  日記の引用が長くなってしまったが、杜陵夜学会最終日の記述である。晦日(みそか)の多忙を押して夜学会に出かけたのは、今夜限りで夜学会での講義もおしまいとの思いが強かったからである。全文に名残惜しさがにじみでている。
  そして、生徒にも愛着がでたのであろう、それまであまり気にもとめなかった生徒の名前を問うたのは、もう会うこともなくなるかと心に留めて置きたくなったのだろう。
  翌9月1日、いよいよ杜陵夜学会の閉会式である。
 
    夕飯クフテ夜学会ニ出ル、鵜川君
    モ来テ居タ、武蔵君モ来タ、閉會
    ノ辞、會員ニ申シ渡シ有、会員四
    名、川村、高橋、小山田、柳田君
    等、何トナシニ物哀シデアツタ、
    机ヤ何カハ明朝鵜川君ガ片付ツケ
    ルトカデスグ引キ去ル四旬ノ夜学
    短カシトイヒ名残多クテ去ルニ忍
    ビヌ、帰途武蔵君宅ニテ會合、佐
    々木君モ来ル、瓜ノ馳走モ出タガ
    余ハ今朝のクダリ腹ヲ思ヒクワヌ
    生徒モ来タ、モジモジシテ瓜モク
    ハデ去ル、小山田君丈一切去タ、
    突然荒木田君ノ凶報ガ来タ、午后
    四時死去、一座満愁誰モ云ハヌ、
    嗟〃無名ノ人格ココゝニ逝キヌ、
    偉大ナル吾ガ荒木田君ハ逝キヌ、
    帰家シテ後日記カイツク、頭ボウ
    トシテ文句ヲ成サズ、夜学会解散
    ノ日荒木田君ハ逝キヌ、荒木田君ハ
    夜学会解散ノ日逝キヌ、九月一日、
    盆ノ十三日思出多キ日トナリヌ、武
    蔵君ト書籍ノ交換ヲヤツタ、日記今
    宵ハイヤデ記スニタエヌ、気ガ小サ
    クテ店ヲ缺(欠)イタ事ガアタマニ
    アルカラダ、アゝイカン〃〃、
 
  講師を務めた武蔵・鵜川・春又春と生徒4名のこぢんまりとした閉会式が行われた。こぢんまりしているだけに講師の春又春たちも生徒たちも「物哀しさ」が募ったのだろう。しかも、突然友人で講師の一人でもあった荒木田君の予期せぬ訃報がもたらされたのであった。「日記今宵ハイヤデ記スニタエヌ、気ガ小サクテ店ヲ缺イタ」に春又春の落胆が言い尽くされているといっていいだろう。こうして、4カ月に及んだ杜陵夜学会は幕を閉じたのであった。


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