盛岡タイムス Web News 2011年 4月 11日 (月)

       

■ 〈大震災1カ月〉遠い「復興」 養殖施設壊滅で大槌漁協・黒沢豊勝さん

     
  ワカメやホタテの養殖施設が流された海を見る黒沢豊勝さん  
 
ワカメやホタテの養殖施設が流された海を見る
黒沢豊勝さん
 
  東日本大震災津波で壊滅的な被害を受けた漁港は数多い。大槌町の漁港もその一つだ。通常であればこの時期にはイサダ、タラ、養殖物のワカメ、ホタテなどが揚がっている浜には、威勢のいい競りの声も漁師の笑い声も聞こえない。仮設住宅が建ち復興の兆しが見えつつある陸に比べ、漁業の現場にまだ復興の2文字は遠い。

  大槌漁業協同組合の副組合長を務める黒沢豊勝さん(69)は養殖のワカメやホタテ、ホヤ、アワビなどで生計を立てていた。養殖のホタテは大きく成長し、これからがちょうど出荷の時期だった。「全部やられた」。津波はすべてを奪い去った。

  岸壁に立って見る海は波も穏やかで普段と変わらなく見えるが、沖の防潮堤は破壊され、漁港の底には家屋などの残骸が数多く沈んでいる。地盤が下がったため大潮になると海水がいまだに漁港に上がってくるという。津波は3階建ての漁協の建物にあった物もすべて流し、毎日競りの声が響いていた市場もたくさんの魚介類が入っていた冷蔵施設も壊した。

  ワカメやホタテの養殖などには共済金が下りるが、漁師はチリ地震津波、年末年始にかけての暴風で施設を整備し直したため借金を持っているところがほとんど。「ゼロからのスタートではなく、マイナスからのスタート」だという。

  「物をそろえるのは次、今は生きていくことが大事」。親兄弟、親戚を亡くし、今後のことを考えられる状況ではない組合員も多い。一方で収入がないことには生活していくことができないのも事実。国の対応が遅い中で組合員からは「手持ち金がないから5万でも10万でもいいから一時金を渡してくれ」「みんな裸一貫で逃げているのだから、少しでもいいから生活をまかなえるお金を」と組合に対して悲痛な叫び声が挙がっている。

  同漁協の倉澤重司組合長(72)も「順序と単位を間違えると復興はない。自分たちだけでできないことが多すぎる。漁業が弱くならないためにも国や県がはっきり指針を明示してほしい」と県や国に早急な支援を求める。その中で漁協としては「今できること、今やらなければならないことは何か、みんなの意向を聞く中で優先順位を決め、漁場を整備する必要がある」と話す。

  ワカメの種付け、イカ釣りの時期がもうすぐ始まる。浜に人を呼び寄せるには収入を挙げる手だてを確保するしかない。どれだけ漁場整備ができるか頭が痛いところだが、来年のワカメ収穫に向けてロープなどの整備は急務だという。

  定置網のサケ漁でも大きな売り上げを上げている大槌町。サケは稚魚を放流して4年後に成長して戻ってくる。「今年稚魚を放さなければ4年後には回ってこない」。ふ化場も津波の被害を受けたが、年末までに使える状態にしないとふ化事業ができない可能性も出てくる。

  国の支援見通しの不透明さ、原発による風評被害の心配、課題は山積する。漁業に明るい兆しはないと話す倉澤組合長。その一方で「それでも海は死なない。自然は強いので信じるしかない。今ここでぶん投げるのは簡単だが、必ず復興はさせたい。そのための人作りだけはやりたい」と力強い言葉も聞けた。三陸のおいしい海産物が食べられる日が一日でも早く訪れるように海と漁師の力を信じたい。
(泉山圭)


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