盛岡タイムス Web News 2011年 6月 25日 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉4 鈴木幸一 桑は不老洋樹の妙薬です

 目から鱗が落ちる、鳥肌が立つ、体に電撃が走る、と表現してもうまく当てはまらないショックを志和稲荷神社で受けました。それは、境内にある看板に「〜神代の昔より、桑は病魔退散のお払いに用いられ、不老長寿の妙薬〜」と記述されているからです。

  大学の卒業論文、大学院の修士論文、そして博士論文のテーマは、いずれも「家蚕」とか、「カイコ」で始まりますし、カイコに関する学術論文も多く生み出してきました。社会通念上、一応「カイコの先生、カイコのプロ」と称されるはずです。が、そのプロにとってもせいぜい、桑の根は桑白皮として漢方薬の素材のひとつと知っているだけで、桑の葉はカイコの食べ物、餌でしかありませんでした。

  大学時代に使用した教科書にも桑は食べられるとか体によいとかの説明は一言も見当たりません。40年以上前にドキドキしながら学会でデビューして以来、どの学術発表会でもヒトが桑を食べて体によかったなどと聞いたことがありませんし、偉大な先人たちの論文からも研究発表からも学んだ記憶がないのです。

  創健950年以上の神社ではありますが、陸奥の奥羽山脈に位置するこの地に、仮にもカイコのプロを驚かせる看板とご神体の存在により、この謎解きが研究人生に大きな影響を与えることになります。

  今世紀に入って、国内外の桑の機能性と健康に関する論文が目立って発表されるようになりました。とうとう桑の研究にのめり込んで、「20世紀までは桑は単なるカイコの食餌植物であったものが、21世紀からはヒトの健康を支えるトップクラスの作物になり、これを称して桑食文化」とまで豪語する羽目になりました。まるで桑の新興宗教の信者のごとくです。

  しかし、科学技術のメスが入ることで単なる伝承ではなく、糖尿病、動脈硬化、メタボリックシンドローム、インフルエンザ、アルツハイマー病・パーキンソン病などの疾病に効果的な機能性物質の発見やネズミによる回復実験の研究成果が次から次と発表されています。岩手大学では、桑に免疫力向上と抗老化作用があることを発見しました。これらの効用を全部合わせて見てください。桑をカイコの餌としか理解していないヒトにとっては、まさに青天の霹靂(へきれき)です。(岩手大学農学部応用昆虫学研究室教授)

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします