盛岡タイムス Web News 2011年 9月 10日 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉9 鈴木幸一 9月は天蚕の卵の季節です

 もう四半世紀以上前になります、天蚕と初めて出会ったのは。

  当時は天蚕のつくる繭(まゆ)が絹のダイヤモンドとして注目されており、通常の白いカイコの繭と比較して20倍以上の高価格であることから、天蚕を研究材料として、将来は農家の収入向上に少しでも役立ちたいという思いでした。

  天蚕は一般名で、生物としての種名はヤママユです。野生のガ(蛾)の仲間ですので、大型の翅(はね)を広げた成虫をみてうっとりと感じる人は変人扱いされ、生き物に愛情を注ぐことのできる人は幼虫と繭の天然の緑色に感動します。

  8月下旬から9月上旬にかけて蛹 (さなぎ)から成虫になり、交尾して産卵します。10日後に卵の中では幼虫の体が出来上がりますが、ふ化することなくそのままの形で眠ります。天蚕を含めた昆虫の多くは冬を無事に越すために前もって眠りますが、逆に、冬の寒さにさらされることで眠りから覚めます。そして、厳しい冬の寒さを乗り越えてこそ、彼らは食べ物となる植物の出芽にタイミングよくありつけます。

  天蚕の食べ物であるクヌギやコナラが落葉する2カ月前のこの季節に、卵の中の幼虫は発育を停止し、翌春の5月初めまで8カ月もの長い間、飲まず食わず眠り続けます。1年のうち8カ月間は幼虫の形で卵の中で眠り、残りの4カ月で幼虫、蛹、成虫へと成長します。

  天蚕の魅力に取りつかれたのには、理由があります。カイコのルーツは中国ですが、天蚕は日本が原産ですので、ヤママユジャパンです。そして、1年のうち8カ月も眠るために農家では年に1回しか飼育できません。この長い眠りを人工的に覚ますことができれば、年に2回以上飼育できるのではないか、そして農家の収入増に結び付くのではないかと、単純に考えていました。

  25年前に、この長い眠りの方は、合成化学物質(イミダゾール化合物)で破ることに成功しました。しっかりと眠っているはずの卵に、化学物質を処理すると、わずか5〜6日後にふ化してきたのです。研究人生でしょっちゅう味わうことができない、自然界の法則を覆すことの喜びでした。

  最近知りました。天蚕糸で着物を織ると1着300万円以上するそうです。オリジナルな岩手大学の人工ふ化法で年に何度でも天蚕を飼育すればコストダウンしますが、天蚕農家にとってはありがた迷惑なことかもしれません。

  (岩手大学地域連携推進センター長)

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