盛岡タイムス Web News 2011年 12月 24日 (土)

       

■ 〈昆虫パワーをあなたにも〉16 鈴木幸一 カイコの冬虫夏草物語(中)

 抗がん作用を持っているとしても二番煎じの物質だけでは、研究心が湧いてきません。そうこうしていると、福島県の棚倉町にある金型企業を経営しながら数人で農産組合を起こし、カイコ冬虫夏草を生産しつつ販売している代表の方が研究室を訪れました。

  岩手大学で冬虫夏草の研究をしているということを聞き付けて、新しい付加価値を見つけてほしいという要望でした。難題ですので、そう簡単に引き受ける訳にはいかないのですが、悪い癖でとうとう胸をたたいてしましました。その訳は高雅な理由からです。

  その社長は、リーマンショックでも50人ほどの従業員を一人も解雇しないで頑張っているのですが、一方では地元に雇用先がないことから若い世代が残らないことに胸を痛めていました。それで、農産組合を立ち上げ、できれば若者の雇用先になるような職場を作りたいという理由を話してくれたのでした。

  研究のスタートは「第一に面白い」という好奇心が先行しますが、カイコ冬虫夏草のケースは、何とか地域社会に貢献したいという使命感が拠(よ)りどころになります。しかし、共同研究として引き受けたにも関わらず、実験場面での最初の切り口が見つかりません。

  研究室には、全国の農学部の応用昆虫学分野としては珍しく、カイコのシルクパウダーやスズメバチ成虫のパウダーをネズミに飲ませて、記憶力向上を解析する実験装置があります。

  この時は特別な根拠もなく、見切り発車で老化ネズミにカイコ冬虫夏草の抽出物を飲ませてみようと実験を開始しました。実験の担当者は、午後7時から11時まで実験をやるということで、博士課程に入学してきた社会人の方です。

  過酷な労働条件ですが、大学ではこのような時間を超越するような研究エネルギーを注ぎこむことで、夜中に発見の女神に出会うことがあります。

  ライオン・イン・ホール!の発見です。化学物質で老化ネズミを作り、このネズミでは、記憶装置として重要な組織になる脳の海馬で傷が発生し記憶が低下しますが、カイコ冬虫夏草の抽出物を5週間飲むとこの傷は消失し、しかも記憶が回復したのです。

  棚から牡丹餅のような予想もしなかった驚くべき効果です。本業と大学院研究の激務を熟した結果、博士号を取得しましたが、この研究成果はアルツハイマー病の予防になるかもしれない可能性が出てきました。

(岩手大学地域連携推進センター長)

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