盛岡タイムス Web News 2014年  4月   12日 (土)

       

■ 〈芋の子の家〉6 志賀かう子 門出の4月


 4月1日、いきいき牧場恒例の新入社員辞令交付式の日である。障害者グループホーム・つしだハウスの職員として、私と世話人・川村ミキさんも小ざっぱりと身を整えて川目の会場に向かった。
  宮古に通ずる国道を走り川目の産直てんぐの里≠左折、山坂を大きく蛇行して一路いきいき牧場へ。

  先頃までの凍てついた日々が、まるでよそごとに思われる穏やかな春の日差しだ。冬枯れの木々が広い視野の遠くに層をなして林となっている。繊細に揺れるようなその梢(こずえ)は早くも萌(も)え出さんばかり、ほのかに薄もも色に、もやっているではないか。

  ああ春だ! と胸にひとりごつ。春は、どれほど人に力を贈り、湧きあがる喜びを与えてくれることか。春は、日本の春は、なんとしても新しい門出にふさわしい、とあらためて思うのだった。

  今年の新入社員は6人、若人たちは男女ともに黒スーツ姿である。髪型はきりりと刈り上げたすがしいものあり、と思えば歌舞伎で踊る猩猩(しょうじょう)さながら、ハリガネのような長髪がこちらの目にはうっとうしい個性派あり、けれどもどの顔も新しい目標を見据える好ましいものに思われた。代表の横手大史さんは、先輩がたどった経験への敬意を忘れずに、自分たちが福祉事業の意味を深く学習し日々の実行に移していく心構えを、無駄なくみごとに語り、私たちは彼らへの頼もしさと安堵(あんど)を覚えるのだった。

  それを受けた白澤国男理事長は新旧職員に語りかけた。障害のある利用者みなに、しかと寄り添って、彼らが身に付けたい、楽しみたい、困っている、といった事柄を共に考え、習い、共に遊び、それぞれの人が持つ長所や優れたものを伸ばすべく心を寄せ、なおかつ地域で自立生活が可能となるよう支援を厚くしていこうではないか、といった内容を。

  新人たちに向かっては、政治も経済も多くの困難に直面して先行きが見えにくい今、厳しい状況下にあればこそ、謙虚に学び、守るべきは守り、改めるべきは改める、という強い信念をもって仕事に臨んでほしい、と励ました。聞き入る私も一つ一つを噛みしめるのだった。

  演壇と向き合う前列から3分の2はげんき丸の利用者たち、老いも若きもいて、晴れがましい席に同席したことが素直にうれしそうな様子であった。式の進行さ中に大声を出したり、席を立ち、あるいは隣席としゃべり合って注意を受けたり、という具合に。

  きっとこの人たちは、健常と自らを思うくせに感情のままに人を誤解したり疎んじたりする私ら半人前の輩(やから)に、ほんものの優しさを学び、優しさに至る細く長い道のりを、生涯を通して歩くことを教えるために生まれてきたのではないか、と真剣に私は考えた。

  それにしても、この人たちに日々接して彼らにとってのよきことのために励む理事長をはじめ、いきいき≠フ職員はみな、実に優しく根気強い。私はここを訪ねるたびに自らの足りなさを恥じることになる。

  同じ目線で障害ある人々と手を取り合う職員さんと重なるように、いきいき牧場創始者・馬場勝彦さんの在りし日がそこに現れた。知的に幼い人たちがみな、満面のよろこびで馬場さんをとり囲む風景である。申し分なしの明るい笑顔で馬場さんはみなのまん中にいる、そんなひとこまである。

  真の優しさに至ることは、おもえばどれほどか難しい道にちがいない。
 


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