盛岡タイムス Web News 2014年  4月  30日 (水)

       

■  〈花林舎流庭造り─よもやま話〉5 野田坂伸也 庭には花を植えるべからず


     
   ガーデニングの話が続きましたので今回は気分転換に違う話をします。  
 
花林舎ガーデン植物園で咲いている水仙の1種
 

 ガーデニングの話が続きましたので今回は気分転換に違う話をします。

  40年近く前ですが、私が小岩井農場の緑化部に入って2〜3年たったころ、近くの温泉地のホテルの庭を造ることを依頼されました。庭といっても玄関前にできた小さい空きスペースを感じ良く格好つけてほしい、という内容の仕事だったのですが、それまで公園や公共の緑地の設計ばかりしていましたので、ホテルの庭というもののイメージがなかなか浮かんできません。経営者に「どんな庭をご希望でしょうか」と聞いてみても開業準備でてんてこ舞いの経営者は「任せるからいいようにしてください」と言うだけでした。それでも何人かの人と雑談をしているうちに、先代の経営者が花を好きで当時としては珍しかった温室を造って草花を栽培し、自分で花を切ってきて客室に飾っていた、ということを語ってくれた人がいました。それを聞いた時「よし、これがいい、これにしよう」と思いつきました。

  ただ花壇を造っても庭らしくはなりませんから、石を並べて対象とする場所を縁取り、中にも少し配置してロックガーデン風に構成した中に宿根草をさまざま植えこみました。当時は緑化ブームでずいぶん忙しかったものですから、花苗がうまく育ったか気にはなっていたのですが、完成後しばらく見に行かないまま過ごしてしまいました。

  3カ月くらいしてやっと時間ができたので行ってみると、おかしなことにあるはずの庭(草花の植栽地)がありません。だいぶ日にちがたっていましたから、場所の記憶があいまいになって違うところを探しているのかもしれないとも思ったのですが、「玄関前」ですから一目で見渡せます。念のため、そんなこともあるはずはないのですが、どこかへ移動してしまったのかもしれないとホテルの横や後ろの方まで見たのですが、どこにもありません。何カ月か前にここに庭を造ったのは現実ではなく夢だったのかな、という気もしてきました。確かここに造ったはずだが、と思う場所には数本の松の木が立っていましたので、ますますあれは夢だったのかもしれないという気持ちが強くなってきて、近ごろ忙しすぎて夢とうつつの区別がつかなくなってきたのかなと心配になってきました。しかし、このまま帰るわけにもいかないので、ホテルの受け付けにいた人に「ここに草花の庭を造ったはずなのですが、どうなったのでしょうか」と聞いてみました。「そんなもの造ってませんよ」と言われたら私は精神科に行かなければならないなと覚悟したのですが、返事は「ああ、あれは壊しました」というもっと残酷なものでした。お前さんの造った庭は当ホテルにはふさわしくない価値のない庭だ、と言われたことになりますから、私は打ちのめされてしまいました。しかし、そのまま引き下がるわけにもいきませんから「どこが気に入らなかったのですか」と聞いてみました。すると、そのホテルには以前から出入りの庭師さんがいて、その人が「庭には花は植えるものではない。これは庭ではない」といって壊して松の木を植えたのだそうです。

  日本庭園は花を嫌うらしい、ということをそのとき初めて知りました。これは「庭とは何か」を考える上で一つの大きなヒントになりました。(ただし、全ての庭師が庭には花を植えるべきではない、考えているかどうかは分かりません。)

 


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