盛岡タイムス Web News 2015年  9月 23日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉454 伊藤幸子 「アフリカのケイタイ」


 
 何事も「大したものだ面
  白し」と二十余年を外国
  に住む    片野千浪

 平成20年刊「アフリカを恋ふ」に続く第二歌集「二人旅」がことし1月出版され、大きな反響を呼んでいる。前回は目の覚めるようなスカイブルーの表紙だったが、今回はあかね空のイメージか、花吹雪とも波しぶきともとれる白い斑点が飛び交う画面。右肩に遠く小さく二羽の鳥が飛び、下部をゆるやかな水引の曲線が五線譜のように美しい。

  昭和12年生まれの氏の輝かしい経歴。34年津田塾大学英文科卒業、結婚後43年から夫の海外勤務でタンザニアへ。50年からはベルギー・ブリュッセルに暮らす。平成9年、ご主人がマレーシア国際交流ディレクターを委嘱されクアラルンプールへ。本書にはその時々の時代背景と、家を守る主婦のゆき届いた生活秩序が美しい詩型として息づいている。

  「羽田発ち二十四時間後アフリカのバオバブの樹影に包まれてをり」「電話線引けぬアフリカ大陸に携帯電話が人々つなぐ」「ケイタイを片手に牛追ひマサイ族は街へ充電に通ひ来るらし」アフリカ詠三首。私は今回アフリカのケイタイに注目した。かつて7年前に出されたときの本には「赤道の直下に永く住みたればわれの化粧は口紅(べに)を引くのみ」との日常詠は見られたが、アフリカで充電器を使う人々の風景は見えなかった。

  マサイ族とはケニア南部からタンザニア北部にかけて住む諸部族。マサイ語を話し牛の牧畜を主生業とするとのこと。「タンザニアの新聞の隅に日本発の記事を見付けて貪(むさぼ)り読みぬ」「アフリカに子育てせし日々浮かび来ぬ旅行案内の落日の絵に」山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」に、異国に暮らす邦人の悲哀が描かれ胸をえぐられたが、片野さんには常に地球のともがらが声を掛け、励ましてくれる日常がある。

  「アフリカに生れたる吾子が取り組める医療器具普及の後押しをせむ」「お一人が二人となりて三人子に孫が五人の家族が出来ぬ」の現在。「わがルーツ南方ならむとふと思ふ着きしその日に道を聞かれて」「カセットに学びし挨拶『アパカバル』(お元気ですか)を先に言はれて返事に窮す」の楽しい歌も見える。

  「十代の終りに出会ひていつの間にか五十余年を二人連れなり」「セミナーの九月生まれのテーブルの隣同士が今も隣りに」そして「デジャ・ヴュの世界に出会ふ旅なりきマレー半島千キロの旅」の手応えはずっしりと、豊かに温かく読む者を包みこんでくれる。
(八幡平市、歌人)



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