盛岡タイムス Web News 2015年  10月 24日 (土)

       

■ 〈体感思観〉 編集局 藤澤則子 松本源蔵さんの教え


 
 「写真は難しいことはない。とにかく近づいて撮ること」。二十数年前、仕事道具となる一眼レフカメラを手にしたばかりの記者に、シンプルなアドバイスをくれた松本源蔵さんが17日に亡くなった。カメラ専門店の社長(会長)として、県写真連盟会長・県芸文協会長として、また地域に根差したさまざまな活動を通して、松本さんを取材のうえでも頼りにしてきた記者は多いと思う。

  入社間もない22歳の私は、松本さんが社長を務めていた店のカウンターで、これから毎日使うだろうカメラを「ニコンFM2」に決めた。「プロっぽい」という安易な理由だったが、つや消しの黒いボディーが手にしっとりとなじむようで気に入った。

  そのとき、カウンターの後ろから細身の上半身をやや傾けて、声を掛けてくれたのが松本さんだった。一見して新前と分かったのだろう。「遠慮しないで、被写体に一歩でも近づいて撮ること。あなたの先輩方を見てみなさい、皆そうしているよ」と。

  実際には、「一歩でも近づいて撮る」ことはすぐに実行できそうで、簡単なものではなかった。準備不足から良いポジションが確保できなかったり、不要な遠慮から被写体に近づけないこともあった。

  もちろん近すぎて状況が分からない写真になっては論外で、厳粛な式の進行を妨げるなど行き過ぎた行動は慎まなければならないが、暗室でプリントした写真を見て「もう少し近づいて撮っていれば」と反省することもしばしばだった。

  入社から10年たつと編集局に新システムが入り、写真もデジタルに移行した。当時のデジタルカメラはタイムラグがありタイミングを合わせるのに苦労したが、マニュアル操作によるピンボケや露出アンダー・オーバーなどの不安がなくなった。

  通常の取材で装着しているレンズも高倍率になり、被写体に近づかなくてもその表情が撮れるようになった。単純な操作ミスも減り精神的にはとても楽にはなったが、必要時以外でも望遠に頼っていないか、本来は近づくべき被写体から遠ざかっていないか、松本さんの言葉を改めて思い出す。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。


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