盛岡タイムス Web News 2015年  11月 11日 (水)

       

■  〈花林舎流庭造り―よもやま話〉45 野田坂伸也 イロハモミジについて

 

 「今年の秋は紅葉が少し早いですね」と会う人ごとに言ったり言われたりしているうちに、県内の中北部では多くのモミジは散ってしまいました。花林舎でもヤマモミジ、コハウチワカエデ、ハウチワカエデなどはすっかり葉を落とした中に、1本だけまだ散らずに残っているのが写真に示したイロハモミジです。イロハモミジは別名をタカオモミジと言いますがそれは京都の高尾山がこのモミジの名所になっていることからつけられた名です。自生地が東北地方南部以南の太平洋側、と暖地であることから、岩手に自生する多くのカエデと比べて紅葉が遅れるのが一つの特徴です。強い寒さが早めに来た年にはまだ赤くきれいな状態から一気にちじれた葉に変わってしまうことがあります。

     
   周囲のほとんどが落葉した中で、まだ紅葉の真っただ中のイロハモミジ。左上の赤い葉の木はカスミザクラ  
   周囲のほとんどが落葉した中で、まだ紅葉の真っただ中のイロハモミジ。左上の赤い葉の木はカスミザクラ
 


  また、私も一度しか経験していないのですが、他の落葉樹は全て葉を落とした中でイロハモミジだけがまだ葉をつけていた時にいきなり大雪が降り、葉をつけていたその木だけがさんざんに枝折れしてしまったことがありました。イロハモミジが雪の少ない太平洋側にしか分布していないのはこのような性質が一つの理由になっているのでしょう。

  日本の庭に植えられるモミジとしてはイロハモミジが圧倒的に多いのですが、それはこのモミジが他の種より葉が小さく繊細な美しさであること、樹形および全体の樹姿が優しく女性的で、クロマツを主木とする男性的な日本庭園を敬遠する人にも受け入れられること、それに紅葉が素晴らしいこと、など多くの長所があるためでしょう。

  山に自生しているモミジは、もちろん年によって違うのですが(昨年は、十数年に一度とも言われたほど素晴らしい紅葉でした。今年もかなりいい方だったと思います)意外にきれいに紅葉しないものが多く、上の方の葉は赤くなっているのに下葉は黄色のままとか、茶褐色にしかならない木の割合がかなり高いのです。それなのにイロハモミジはどうしてどの木もきれいに真っ赤になるのでしょうか(ただし、均一に全体が一斉に赤くなるわけではありません)。

  イロハモミジも日本の庭によく使われるようになった初めのころはどれもそろって美しく紅葉する木ばかりではなかったのではないか、と考えられます。何百年も庭に植えられている間に、素性の優れた個体が選抜され、その木の子孫が増やされる、ということが繰り返されて今のようになったのであろう、と私は推測しています。私が岩手に帰ってきて造園の仕事に関わるようになった40年ほど前には、きれいに紅葉しないドウダンツツジの苗が結構流通していました。ところが気が付いたら今ではドウダンツツジは全ての木が実に美しく紅葉する木ばかりになっています。かなり短い期間の間に改良されてしまったわけです。ドウダンツツジは挿し木で増やすのが容易な木ですし、需要も多いので急速に改良が進んだのでしょう。

  この辺の山に自生するモミジの中から素晴らしい1本を選び出し、花林舎植物園に植えたいと思いながらもう何年も過ぎてしまいました。来年こそは必ず、と…。


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