盛岡タイムス Web News 2015年  12月 15日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉 「うそついたら」齊藤駿一郎



薄明
夜明けのまどろみ
耳の底のそこ
あれはまぼろし
幼い私の声
母のこえ

「指きりげんまん
うそついたら…」

西の空を薄紫に染め
山超え 野超え
私の枕辺に
遠くかすかに

「指きりげんまん
うそついたら
針千本飲ます」

母のやせた小指
母の清美な小指に
傲慢な私の小指に

「うそついたら
うそついたら…」
私の小指に
必死に絡ませた

母の小指よ

私は幾度うそをついたことか
それなのに母は
針一本飲ませなかった
代わりに自分が飲み込んだ千本万本の針

母は逝った
春は夜明け
まどろみのなか
あれはまぼろし
幼い私の声
母の声

「うそついたら
うそついたら…」



本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします