盛岡タイムス Web News 2015年  12月 16日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉466 伊藤幸子 「盛岡ブランド文士劇」


 照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜に如くものぞなき
                                大江 千里

 12月5、6日、恒例の盛岡文士劇が盛岡劇場で開催された。現代劇は藤原正教さん脚本演出の「もっ、ぺっこ」、時代ものは「源氏物語」道又力さん脚本で、私はチケット発売日からこの日を待っていた。千秋楽「トチリの席」、6列14番。昔から芝居小屋ではイロハの席番で、6、7、8番あたりが特等席とされている。最前席は首が疲れるし、花道のそばだと畑中さんに「おめはん、どごからおでんした」とちょされる(からかわれる)から恥ずかしい。

  源氏物語、あの世界最古の長編小説の舞台が盛岡劇場で見られる!と期待が膨らんだ。

  起伏に富んだ54帖の中でも、源氏の君17〜20歳ぐらいまでの巻は雨夜の品定めや空蝉、夕顔、若紫など多感な若者たちの織り成す物語。開幕時に現れた丈(たけ)高き女人のものごしにはいささか度肝をぬかれた。藤原道長役井沢元彦さんと、なんと娘彰子を斎藤純さん。

  今をときめく一条帝サロンは彰子中宮に仕える紫式部(内館牧子さん)の物語に話題沸騰。そして「源氏物語」の展開。豪華絢爛(けんらん)な舞台装置、衣裳、小物までゆき届いた平安朝文化を再現してすばらしかった。

  この夜、眠れぬままに光君は、朧(おぼろ)月の美しさに誘われて藤壺の近くをさまよう。ここには最愛の君藤壺の宮が住んでいるのだ。するとなにか人影の近づく気配。

  「人はみな寝たるべし。いと若うをかしげなる声の『朧月夜に似る物ぞなき』とうち誦(ず)してこなたざまに来るものか。いと嬉しくて、ふと袖をとらへ給ふ…」と源氏、朧月夜の出会いのクライマックスシーン。

  われらの光君は読売新聞記者の浅川貴道さん。朧月夜は阿部沙織アナウンサー。源氏の思いはつのるばかり、ある雨の夜、禁断の一夜を過ごしてしまう。この場面、原作では薄二藍(うすふたあい)の帯にまつはれて引き出された手習いの紙などに父右大臣大いに驚き大騒ぎ。盛岡ブランド文士劇では男の烏帽子(えぼし)がころんと落ちていた。

  金田一秀穂さんの明石入道、名演技。お声朗々と音楽的で、明石姫を光君に差し出す筋書きに父君の情がみえて実に良かった。

  桐壺、藤壺、明石姫は米澤かおりアナウンサーが一人三役、六条御息所役のNHKの下道キャスターは毒のない愛らしい新キャラクターと感じ入った。なんとも厖大(ぼうだい)な長編小説を分かりやすく、個性的に仕上げられた脚本に感銘、盛岡文士劇の底力に心から感動した。
    (八幡平市、歌人)



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