盛岡タイムス Web News 2016年  1月 13日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉308 三浦勲夫 ラクゴ英語


 日本語の洒落(しゃれ)、英語の洒落、あるいは日英混合、英語以外の外国語と日本語を交えた洒落―。遊び心から、そのような要素を持つ語学教材も作ってみたい、と思い実践し始めた。語学に「語楽」の要素を盛り込む、「ラクゴ(落語・楽語)英語」である。

  英語の洒落、あるいは広い意味での「言葉遊び」といえば、まずシェークスピアを思い出す。1564年から1616年までの52年の生涯に、詩と戯曲を数多く書いた。戯曲には、悲劇、喜劇、史劇がある。特色の一つは、豊富な笑いの要素である。それが、悲劇の重い雰囲気にも、息抜きの余裕や、明暗の対照を与える。息詰まる場面でも、笑いやゆとりを求めて生きようとする人間性が、醸し出される。

  自分は芝居も小説も書かないし、書けないと思っている。しかし、日本語でも、英語でも、書くことは好きで、それが長く続いている。続けていると、書き方のスタイルや、内容も、変えてみたい、と時々思う。その一つが「英会話」形式であり、さらに笑いの要素を加えたいと思っている。

  ブログには「岩手まいにち英会話」を3年以上書いている。2人の人物の対話が基本である。人数は2人に見えても、さまざまな人物の取り合わせになる。AとBという記号名を持つ「仮面人物」である。そこに面白味を加味しようとすると、落語的にするのが一案かな、と思う。笑える場面の挿入とか、最後の「落ち」とかである。

  では、どのような例を書いたか。飼い犬のロックをテーマとしては、「ラッキー・ロッキー」、「シックス・オクロック・ロック」などを書いた。ラ行音でも、LとRの発音差はあるが、押韻は踏んでいる。建築中のアパートをテーマにしては、動詞の「アパート」と引っかける。「日光をさえぎられる」に使える「アパート」(apart from sunlight)である。このように、その気になれば、言葉遊びの素材は見つかる。

  今年のように雪のない冬をテーマにすれば、フランス語の「ネージュ」(雪、neige)、ドイツ語の「シュネー」(Schnee)を利用できる。「この冬は雪がないシュネー」とか「雪がネージュ」とか。この例は駄洒落に類するだろうが、思い出すのはその昔の大学受験ラジオ講座である。英語講師で面白い話を連発した野原(?)教授がおられた。今でも覚えているのは、「あなた急いでイナハリますか?」である。In a hurryの意味が「急いでいる」である。その熟語を初めて知った。その先生は「単語熟語」の解説が得意分野だった。その方法で英語のボキャブラリーを全部習得できるか、といえば無理なのだが、「オアシス」のようなうるおい(あるいは蜃気楼?)を、索漠とした受験勉強に与えていた。

  英語落語を演じる噺家もこれまでに何人か出た。桂枝雀は一例である。それは英語で筋を滑稽に語るものだった。ユーモアは上手に翻訳できない。ユーモアの質の違い、文化の違い、言語の違いがある。しかし、翻訳不可能と思われるユーモアのギャップを少しは埋められる。意味だけを別の表現で訳す「意訳」や、異なる設定に持ち込む「異訳」がある。ナンセンスな関連を求めれば駄洒落もある。猫もしゃくしも、五郎も次郎もご覧(ろう)じろ。英語も楽しくなる、新しいユーモアが生まれる。
(岩手大学名誉教授)


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