盛岡タイムス Web News 2016年  1月 26日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉あかぎれ 渡邊満子



七人の子供を育てて
治る間のなかった
母の手の
あかぎれ―

大きなブリキのバケツを両手に
帰帆場へ洗濯に行くのが
母の日課だった

冬の凍れる日も
  「帰帆場は湧水だから
   ぜんぜん冷たぐねぇ
   ぬぐくて気持いいよ」と
楽しそうに出かける母

白い割烹着の袖口から
赤くザラザラとした
母の手や腕がのぞき

風呂あがりには
小さな鏡台の前で
顔にウテナクリームをつけ
手のひびにはメンソレータムを
丹念にすりこんでいた

近所の女たちで賑わっていた
帰帆場の面影はなく
陸橋から眺めていると
昏れ残った一片の芹田が
いつまでも光っている

夏になっても治らなかった
母の指先や関節の
赤いひび割れのように―



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