盛岡タイムス Web News 2016年  5月 24日 (火)

       

■  〈おらがまちかど〉97 盛岡市 東山1丁目地内 手仕事で次代への伝言 武重敏子さん 母心で女性表具師に(馬場恵)


     
  「次に生まれてくるときも表具師になりたい」。全力で仕事に向き合う武重敏子さん  
  「次に生まれてくるときも表具師になりたい」。全力で仕事に向き合う武重敏子さん  

 表具師は、掛け軸や額を作ったり、ふすまやびょうぶを仕立てたりする職人。盛岡市東山1丁目の武重敏子さん(74)は珍しい女性表具師だ。主に掛け軸の修繕や制作を手掛けており、その丁寧な仕事ぶりを頼りにする書家や茶道家も少なくない。 

  掛け軸の制作には数多くの工程がある。絵や書をよく吟味し形式を決めた後、裂地(きれじ)と呼ばれる紋織物の組み合わせをデザイン。作品や裂地の裏に和紙を貼り付ける「裏打ち」をして形を整え、作品と裂地をつなぎ合わせていく。掛け軸を巻く芯となる「軸棒」なども自身でのこを引いて寸法を調整する。

  表具師を志したのは40代半ば。書道に取り組む娘を応援したくてライフワークに選んだ。今日まで4人の師匠の下で修業。師匠の勧めで高等職業訓練校に通い、表装技能士の資格も取った。

  仕事を受けるときは、できるだけ発注者とじかに会う。住まいの様子や衣服の好みなどを確め、仕上がりのイメージを提案。「全て任せろ」という職人が多い中で、きめ細かにオーダーに応じるやり方が「ユニークかも」とほほ笑む。
「『もの』には一つ一つ運命があると思う」と武重さん。例えば、古いつぼや食器。当時は50個、100個と作られたのかも知れないが、その中のたった一つが何十年、何百年の時を経て今、ここにある。ここに来るまで、どれだけの時や季節、人間が関わったのか。「今、ここに存在するのも『もの』の運命」だ。

  書画を守り、引き立てる表具を修理し、整える仕事は運命を背負ったものを「次の時代に送り届ける仕事」と感じている。「文化財だけがお宝ではない。庶民にだって大切に次の時代に引き継いでいきたい『もの』がある。それを手伝うのが表具師」と力を込める。

  師匠たちは80歳すぎまで活躍していた。だが、誰しも引退しなければならない時は来る。それを意識し始めたころから、より緊張感を持って仕事に取り組むようになった。ここ数年は花巻市東和町で年2回開かれる「土澤アートクラフトフェア」にも出店。絵手紙や短冊にも似合う小物をそろえて買い物客と会話を交わす。一人でも多くの人に表具に関心を持ってもらいたいとの願いからだ。

  床の間のある家が減り、表具師の仕事だけで食べていくのは難しい時代。そんな中でも技術を絶やすことなく、海外で紹介する機会も持ちたいと夢を抱く。
(馬場恵)


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