盛岡タイムス Web News   2017年  9月  29日 (金)

       

■  〈ニューヨーク・ニューヨーク〉12 沢村澄子 宿泊ホテルの台所


     
   マンハッタンのオープンカフェは観光客に席巻されていたが、ブルックリンではのんびりムード。愛らしいカフェがいくつもあった  
   マンハッタンのオープンカフェは観光客に席巻されていたが、ブルックリンではのんびりムード。愛らしいカフェがいくつもあった
 

 「物価が高い!」ホテル内で幾度となく交わされていたこのせりふ。NYの物価には本当に泣かされる。ホテル代はおよそ東京の3倍。サンドイッチ一つと手のひらに収まるような小さなリンゴ1個で千円を超える。店で食べようものなら、どんな軽いものでも2千円は覚悟しなければならない。

  今回、ホテルの台所がしっかりしていたこともあり、長期滞在のわたしは完全自炊。近所のスーパーでガッツリ食材を買い込んで、米がパンに、うま味系の調味料がスパイスに代わる以外は普段と同じような食事。お昼のサンドイッチをリュックにかついで街に出た。

  台所で行き合う滞在者同士のやり取りも面白く、その個性やお国柄もあちこちで反映される。スマホと鍋を交互に見比べながらぎこちない料理をするのは決まって日本か中国の男子だったし(なぜか日本女子には一人も会わなかった)、ラーメン専門家もいれば、オーブンを使う本格派もいた。

  イタリア男子は、どこで仕入れてきたのかピチピチのイカや魚の頭を台所に持ち込み、鼻歌を歌いながら豪快にフライパンを揺する。「ニンニク要る?あるけど」と言ったら「有難い!」と破顔。それで、横に座った彼にわたしは聞く。「ねえ、イタリア人の男性は皆、ママが大好きだってホント?」「え〜。それはサ〜。イタリアって家族や親族の結びつきがものすごく強いわけよ。だから、ママはその中心で…」「そんな難しいこと聞いてないわ。あなたはママが好きか、って聞いたの」「だからサ、ママは家族の中心で…」「だから、ママが好きでしょ」「んー。好きだよ。だけどなんでそんなこと聞くのサ」「あなたの顔にママが好きって書いてあるからよ!」「エッ…」

  また、哲学者のように鍋底をにらみながらトマト缶の中身を投げ込んでいる人もいて「いい匂い!」と言ったら無言でチラリとこっちを見た。「キミもこれから作るの?」「ううん。今日は疲れたから食べないでもう寝る」「そう」「NYはどう?」「好きじゃないね」「どうして?」「食べ物がよくないよ」「そうなのよね…(味付けがコテコテ)あなた、お国は?」「ドイツ」「ドイツはおいしいのね」「おいしいサ!」彼は終始むっつりして鍋をにらんでいたが、そのむっつりした話は面白かった。
     (盛岡市・書家)
 


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします